研究課題/領域番号 |
19K01296
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷川 佳彦 大阪大学, 法学研究科, 准教授 (40454590)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 行政訴訟 / 訴訟類型 / ドイツ法 / 歴史研究 |
研究実績の概要 |
2020年度は、ドイツにおける抗告訴訟と当事者訴訟の概念および両者の関係について、第2帝政期およびヴァイマル期の文献や雑誌論文を収集し、それらの分析・考察を進めた。その結果、例えば次のようなことが明らかになった。 1. 行政処分が争われる抗告訴訟において、国家ないし行政処分を発した行政庁を、原告である私人と対立する当事者として観念するかどうかは、国家を私人と同じような権利の帰属主体と捉えるかどうかに左右される部分があった。学説の中には、公権力の主体としての国家は、私人と同様の権利の帰属主体と捉えることはできず、民事訴訟の場合のように権利義務の対立を考えることができない以上、抗告訴訟では当事者は原告である私人のみであり、国家ないし行政庁は当事者でないとする見解があった。 2. もっとも、公権力の主体としての国家を、私人と同様の権利の帰属主体と捉えない場合でも、対審的手続を通じて裁判の正当性を保障するために、国家ないし行政庁を私人と対立する当事者に位置付ける見解も見られた。プロイセンにおいて、行政処分が争われる抗告訴訟で行政庁が被告とされていたのは、そうした見解によって説明することが可能である。プロイセンでは、行政庁が当事者の実質を備えているか否かに関わらず、法律が行政庁に当事者の地位を認めている以上、行政庁が被告になるとも言われた。 3. ヴァイマル期に行政裁判制度を設けた主なラントとして、テューリンゲン、ハンブルク、ブレーメンを挙げることができるが、それらのラントはいずれも、行政処分が争われる抗告訴訟において国家ないし行政庁を被告に位置付けていた。そこでは、2で述べた見解の影響もあったと考えられるが、さらにハンブルクとブレーメンに関しては、従前は民事訴訟を扱う司法裁判所が行政事件も管轄していたことも背景にあるのではないかと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、第2帝政期およびヴァイマル期の状況について研究を進めた結果、「研究実績の概要」に記したような知見を得ることができた。しかし、昨年度の研究実施状況報告書のうち「今後の研究の推進方策」の中で、特にプロイセン上級行政裁判所の判例の分析を行う必要がある旨を書いた。その分析は、プロイセンの抗告訴訟において、行政処分を発した行政庁が被告とされていたことの意味をより明確にするために必要な作業であるが、未だ十分に進んでいない。 また、第2帝政期およびヴァイマル期に関する研究の過程で新たに参照すべき資料が出てきたが、その中には、国内の他大学、さらにはドイツの大学や図書館にしか所蔵されていないものもあった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、国内の他大学の訪問やドイツへの出張ができず、それらの資料をまだ収集できていない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、まず、第2帝政期およびヴァイマル期の資料のうち、まだ収集・分析ができていないものについてその作業を行う。特に、プロイセン上級行政裁判所の判例の分析が十分に進んでいないので、優先的に取り組みたい。 未収集の資料は、研究代表者の出身大学である京都大学でおおむね収集可能であるが、ドイツの大学や図書館にしか所蔵されていない資料も存在する。もっとも、新型コロナウイルスの感染拡大が依然として続いている状況の中で、ドイツの大学や図書館を訪問して資料を収集できるかどうかは、現時点では未確定である。 2021年度中にドイツに出張できない場合、国内で収集できた資料の分析が終わり次第、先に第2次世界大戦後の状況に関する研究に着手する。その際には、研究計画調書に記した通り、1960年制定の連邦行政裁判所法がなぜ抗告訴訟と当事者訴訟の区別を放棄するに至ったのかなどの問題を意識しながら、研究を進めたい。 この他、本研究に関連するわが国の先行研究の分析を本研究開始当初から順次進めてきたが、2021年度もその作業を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度使用額が生じたのは、まず、以前にドイツの行政訴訟の訴訟類型に関する研究を行っていたが、その際に収集した資料を本研究でも活用することができ、追加で資料を収集する必要性が小さくなったことによる。また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、国内の他大学の訪問およびドイツへの出張ができなかったということもある。 (使用計画) 2021年度は、研究を進める中で必要になった資料を積極的に収集する。そのために、新たに刊行され、研究に不可欠な文献の情報を広く集めて積極的に購入する。また、さしあたり研究代表者の出身大学である京都大学を訪問して、資料を収集するつもりである。さらに、関西圏以外の大学およびドイツにも出張して、資料を収集したいと考えているが、新型コロナウイルスの感染拡大の状況次第では、その計画を実現できない可能性がある。
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