研究課題/領域番号 |
19K01296
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷川 佳彦 大阪大学, 大学院法学研究科, 准教授 (40454590)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 行政訴訟 / 訴訟類型 / ドイツ法 / 歴史研究 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究実施状況報告書では、2023年度も抗告訴訟と当事者訴訟について、日本の議論の分析・考察を継続すると述べた。しかし、新型コロナウィルスの感染が収束し、ドイツへの出張ができるようになったことから、2023年度は上記の予定を変更して、抗告訴訟と当事者訴訟の概念および両者の関係について、第2次世界大戦後のドイツの議論状況に関する研究の取りまとめに取りかかった。その結果、例えば次のような知見をまとめることができた。 第2次世界大戦後のドイツでは、1960年に連邦で統一的な行政裁判所法が制定されるまでの間、行政裁判に関する法令は州ないし占領地域ごとに制定されたが、その中にはアメリカ占領地域の行政裁判法など、抗告訴訟と当事者訴訟の区別を行っていたものが存在した。そのような法令は、抗告訴訟と当事者訴訟の区別をしていた、かつてのヴュルテンベルクの行政裁判制度などの影響を受けたものであったと考えられる。 しかし、ヴュルテンベルクの行政裁判制度などにおいては、抗告訴訟の当事者は原告のみであり、行政処分を発した行政庁や国家はそれに相対する当事者でないとされていたが、アメリカ占領地域の行政裁判法などにおいては、抗告訴訟の場合にも当事者訴訟の場合と同じく、原告と行政庁または国家が当事者として相対する形態が採られるようになった。そうした変化は、抗告訴訟でも原告の適正な取扱いを確保すべきという認識に基づくものであったと考えられるが、さらに、行政処分を争う訴訟においても原告と行政庁または国家が相対する形態を採っていた、かつてのプロイセンの行政裁判制度などから影響を受けたものであった可能性もある。 そして、上記の変化により、当事者の点に関しては抗告訴訟と当事者訴訟の間で形態に違いがなくなった結果、学説の中では、立法論の見地から両者の区別を不要とする見解が主張されるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、抗告訴訟と当事者訴訟の概念および両者の関係について、第2次世界大戦後のドイツの議論状況に関する研究の取りまとめに取り組んだ結果、「研究実績の概要」に記したような知見をまとめることができた。しかし、取りまとめの過程で、第2次世界大戦前の議論状況を参照する必要がしばしば生じたため、想定よりも取りまとめに時間がかかり、1960年に制定された行政裁判所法の立案過程の分析結果は取りまとめることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度はまず、2023年度に積み残した行政裁判所法の分析結果の取りまとめに取り組む。取りまとめに当たっては、行政裁判所法がそれまでのアメリカ占領地域の行政裁判法などと異なり、なぜ抗告訴訟と当事者訴訟の区別を破棄したのかという点に特に注意する。また、取りまとめの作業を行う過程で補充すべき資料が生じた場合は、国内の関西圏以外の大学にも出張して資料を収集する。以上の取りまとめを終えたら、次は抗告訴訟と当事者訴訟の概念および両者の関係について、第2次世界大戦前のドイツの議論状況に関する研究の取りまとめに着手したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 2023年度はドイツに出張したが、ドイツで収集すべき資料はゲッティンゲンとミュンヘンの二都市で集めることができ、想定よりも旅費がかからなかったからである。また、それ以外に必要な資料の多くも所属機関に所蔵されていた。 (使用計画) 2024年度は、研究の取りまとめを行う過程で補充が必要になった資料を積極的に収集する。そのためにまず、新たに刊行され、研究の取りまとめに不可欠な文献の情報を広く集めて積極的に購入する。また、国内の関西圏以外の大学にも出張して、資料を収集する。
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