研究課題/領域番号 |
19K01299
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
井上 嘉仁 広島大学, 社会科学研究科, 准教授 (70390515)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 表現の自由 / 専門職言論 / 営利的言論 / 知識コミュニティ / 専門家 |
研究実績の概要 |
専門家が顧客(依頼人,患者)にあたえる助言は,職業活動の一環であって,表現ではない。こう割り切って良いか。あるいは職業活動に付随する表現ではあるが,特有の規制に服することが正当化されるのか。専門家の助言のように,ある一定の特徴をもつ言論を「プロフェッショナル・スピーチ(専門職言論)」として類型化することは,表現の自由保障に何をもたらすのか。令和元年度はこのことを中心に研究した。 とりわけ,知識コミュニティ理論を提唱するClaudia E. Hauptの理論の有効性について分析をおこなった。この理論の優れた点は,専門職にある個人の主観的権利とは異なる専門家集団としての知識コミュニティの利益に着目していることである。そうすることで,専門職言論類型は,表現の自由を保障する合衆国憲法修正1条のもとで,知識コミュニティの専門知識を改変されないことの保障をも含む,との理解が可能となる。 一般に,憲法上保障されている主観的権利は,同時に,客観的な正しさを保障していると解される。表現の自由は主観的権利であるが,それは同時に客観法原則も保障している。その客観法原則は,個別の主観的権利に還元できないが,国家が遵守すべき憲法原理を内包している。 知識コミュニティ理論は,専門職言論の文脈における客観法原則を説いていると理解できるというのが,本研究の中間的到達点である。すなわち,知識コミュニティへの敬譲を要求する客観法原則は,国家による制度構築の裁量統制として機能する。それは国家による免許・資格付与と連動する言論強制の制度化を限界づける重要な意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度中の研究の進捗は,概ね順調といえる。 アメリカにおける専門職言論の主要な論客の一人であるClaudia E. Hauptの提唱する知識コミュニティ理論を分析研究することで,その応用可能性を示すことができたことがその主な理由である。またNIFLA事件についてのアメリカ連邦最高裁判所判決に対する評価がいくらか出てきており,それらを参照することができた点も,進捗が概ね順調に進んだ理由といえる。アメリカにおける議論状況の把握は次年度も継続しておこなう。 他方,新型コロナウィルス蔓延の影響により,裁判の遅延や合衆国における学術的対話が停滞するおそれがある。この点に留意しながら,研究を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究も,アメリカにおける議論状況の把握,最新の判決の分析を中心におこなっていく。文献研究が中心であり,オンラインデータベースが利用可能であるため,研究の推進に大きな問題は無いと思われる。 今年度は特に,専門家のコミュニティの自律性をテーマとして,学問の自由と表現の自由の関係を整理することになる。既に文献をいくつか入手しているので,それらを精査しながら,不足した情報をさらに網羅し,研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な文献について,今年度の中心テーマにかかわる書籍を中心に収集したため,研究課題全体にかかわる文献を網羅的に収集できていないことが,次年度使用額の生じた主要な原因である。 次年度は,今年度の研究を基礎として,その波及する分野の文献も収集する計画である。これにより,当初予定してた網羅的な文献収集をおこなうことができ,研究課題を円滑に実施できるものと考えている。くわえて,研究の中心となる文献の収集についても継続しておこなう計画である。 全体として,研究計画に概ね順調に進行しており,問題ないものと考えいている。
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