2022年度においては、ガバナンスやリスク統御理論に関わる論考を収めた単著『統治機構論の基層』の執筆準備を進め(2023年6月刊行予定)、とりわけ、議会立法者が事前に自らの規律の結果につき十全な知識をもたない領域が増加し、むしろ、規制の名宛人が当該規制のもつリスクについて最もよく知っている、という動体的知識形成や共同規制に関わる内外の理論状況を踏まえて、このような私的アクターが有する知識や動態的に生成された知識をいかにして収集し、公共体の透明な統治構造の中に取り込むか、という問題構造の解明に取り組んだ。 様々な制度改革構想のうち、特に議会審議を通じた専門知識の統治への反映に関しては、行政監視機能を通じた専門知の反映ルートのほか、立法過程における議会審議の実質化、そのための立法事実の的確な把握が重要になる。この点は、議会審議それ自体の手当もさることながら、議会に提案される前の段階で、どのように法案の立法事実を的確に収集・整理し、議会・公衆に理解可能な形でこれを提示するかという問題が重要である。この点について「法案事前評価の改革――立法事実の把握と議会審議の実質化」只野雅人編『講座 立憲主義と憲法学 第4巻 統治機構Ⅰ』(信山社、2023年)掲載予定で扱ったほか、「免責特権の拡充――対抗権力の確保という視点から」只野雅人ほか編『統治機構と対抗権力』(日本評論社、2023年)122-139頁でも同様の視座から議会審議における対抗権力の確保、それを通じた多様な見解の議会フォーラムへの流入へ向けた処方箋を提示することを試みた。
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