研究実績の概要 |
本研究では、公務員制度に求められる民主的正統性の要請と公務員の職務遂行の政治的中立性の要請及びそこから派生すると考えられる専門性の要請とを調整するひとつの仕組みとして、公務員による上司等に対する意見具申があり得ることに着眼し、このような意見具申を憲法上どのように位置づけることができるか、合衆国における判例法理の展開も参照しつつ、検討した。公務員の意見具申と憲法との関係については、これまで憲法15条2項の「全体の奉仕者性」を根拠に公務員の意見具申権の保障を認める説と、憲法15条2項は権利制約規定であることからこれを否定する説が提示されていた。本研究は、公務員の意見具申が表現の自由により保障されるか否かをめぐり展開されている合衆国における論争状況を参照し特にGarcetti v. Ceballos, 547 U.S. 410(2006)に着眼して研究を行い、当該判例で展開されているブライヤー裁判官の反対意見は公務員の専門家としての役割に焦点を当てるものであることなど、わが国においても注目すべき見解が展開されていることが明らかになった。この研究を通して、公務員の勤務関係では制約と保障の両面からの考察を要するとする近時のわが国における学説の指摘も踏まえ、憲法15条2項は、憲法21条と結びつく形で、公務員の勤務関係における保障のひとつとして、公務員の意見具申の保障を認めるものであるとの新たな見解を展開し、結論的には、わが国においては、表現の自由を保障する憲法21条と結びつく憲法15条2項の「全体の奉仕者」性を根拠に、これを保障することができるとの結論に達した。
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