研究課題/領域番号 |
19K01307
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
倉田 原志 立命館大学, 法学部, 教授 (10263352)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 憲法価値 / 労働法 / 規範的効力 / ドイツ |
研究実績の概要 |
研究全体としては、立憲主義国においては、憲法が最高法規であり、法律は、憲法に反することができないだけではなく、憲法を具体化する役割を負い、法律が実際にどうなっているかは、憲法がどのように規範的効力を発揮しているかという問題でもあるので、法律のなかで労働法に焦点をあて、この問題について、ドイツでの議論を素材として検討するものである。具体的には、労働法の基本理念は憲法のどこに求められるか、人権の労働関係における効力、労働法の規制緩和に憲法上の限界はあるかについてを中心として、ドイツでの議論を追い、日本との比較を試みる。 2020年度は、労働法の規制緩和に憲法上の限界があるか、あるとすればそれはどこから導かれ、どのような限界かを検討することにしていたので、ドイツにおいて客観的理由のない有期契約の制限が1985年から緩和されてきたことを素材として検討し、「ドイツにおける職業の自由と保護義務・覚書-客観的理由のない有期労働契約の制限を中心に-」という論文を執筆した。連邦憲法裁判所は、有期労働契約の制限について、基本法12条が保障する職業の自由から生じる保護義務を考慮したものであるとし、立法者がこの保護義務を果たす際には、広範な判断の余地・形成の余地が認められるとするが、それについて裁判所は審査できないというわけではなく、どのように審査すべきかは争われているが、連邦憲法裁判所は、比例原則にもとづく審査で使われる、目的の正当性、適合性・必要性・過大ではないかを審査する枠組みを使い審査していることは確認できたが、引き続き検討することが必要である。また、2021年度の課題である、連邦憲法裁判所と連邦労働裁判所との関係について、2009年以降の両裁判所の判決を検討し、「ドイツにおける連邦憲法裁判所と連邦労働裁判所による基本権の実現-その協調と不一致-」という論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、検討予定事項である③労働法の規制緩和に憲法上の限界があるか、あるとすればそれはどこから導かれ、どのような限界かについて、ドイツにおける客観的理由のない有期契約の制限について検討し論文を執筆することができたが、立法者による規制緩和が違憲かどうかを裁判所がどのように判断するべきかについての議論の検討については課題が残ったため。 また、2019年度には、①労働法の基本理念は憲法のどこに求められるかについても検討することになっていたが、現在ドイツでは、EU法との関連でも、基本権の私人間での効力についての議論が多くなされている状況にかんがみ、②基本法の保障する基本権の労働関係における効力について、これまですすめてきた研究を特にEU法を考慮に入れて補足・補充すること、特に、EU法に関連する議論の検討を先行させたことから、①については検討できなかったが、2020年度も①については検討できなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度には、④連邦憲法裁判所と連邦労働裁判所との関係について、連邦憲法裁判所が専門裁判所である連邦労働裁判所の判決に対してどの程度審査できるか、実際にどのような判決をしているのかを検討する。日本には憲法裁判所も労働裁判所も存在しないので、相当する議論はなく、ドイツに固有の議論であるが、ドイツの憲法学においても、判例の重要性が高まっていること、また、最近、連邦憲法裁判所が連邦労働裁判所の判決を取り消すことが増えていることからすると、検討が必要な事項であるといえる。2020年度には、2009年以降の両裁判所の判決について検討し、論文を執筆したので、2021年度には両裁判所の設立にさかのぼって、判決およびその背景となっている理論の異同を検討することとしたい。 また、2019年度には検討できなかった、①労働法の基本理念は憲法のどこに求められるかの検討、さらに、ドイツにおいて最近でも議論が続いている②基本法の保障する基本権の労働関係における効力についても、その状況を追うこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度には、コロナ禍の影響で旅費がほとんど執行できなかったこと、資料整理等のために人の雇用をしなかったことによる。 資料収集およびインタビューのため、状況をみつつ、ドイツに行くための旅費を使用することを追求する。また、ドイツ語の関連書籍を計画的に購入し、資料整理等のために謝金等も使用する。
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