研究全体としては、立憲主義国においては、憲法が最高法規であり、法律は、憲法に反することができないだけではなく、憲法を具体化する役割を負い、法律が実際にどうなっているかは、憲法がどのように規範的効力を発揮しているかという問題でもあるので、法律のなかで労働法に焦点をあて、この問題について、ドイツでの議論を素材として検討するものである。具体的には、①労働法の基本理念は憲法のどこに求められるか、②人権の労働関係における効力、③労働法の規制緩和に憲法上の限界はあるかについてを中心として、ドイツでの議論を追い、日本との比較を試みることを目的とした。 2022年度には、①と③を検討することを予定していたが、③で問題となる立法者の裁量に関して、基本権の内容形成という側面からの検討を中心とし、団結の自由を素材に「ドイツにおけるストライキの際の派遣労働者による代替労働の禁止-団結の自由の内容形成の一断面-」という論文を執筆した。この論文では、ドイツの労働者派遣法の改正によって、派遣労働者をいわゆるスト破りとして使用することが禁止されたことが、使用者の団結の自由を侵害するものとして違憲かどうかという問題をとりあげ、連邦憲法裁判所が、この改正規定は、団結の自由を制限するものではなく、内容形成をするものであると位置づけた上で、基本権の制限についての審査と同じ枠組みである比例原則でその合憲性を審査したことに注目し、それをめぐる議論の状況を検討した。 研究期間全体を通じて、ドイツの労働法の分野では、連邦労働裁判所と連邦憲法裁判所の判断に、一定の歩みよりや基本的な一致がみられ、立法者による法律の規制緩和や法律による内容形成に関する判断においても、立法裁量の統制がなされ、一定の緊張関係はありつつも、共同して人権の実現がめざされているといえることが明らかにできたと思われる。
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