研究課題/領域番号 |
19K01308
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
望月 爾 立命館大学, 法学部, 教授 (60388080)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 納税者権利保護 / モデル納税者権利憲章 / 租税手続法制の国際的調和 / 税務行政のデジタル化 / ビッグ・データの利用 / 納税者のプライバシー保護 |
研究実績の概要 |
(1)各国の納税者保護法制や納税者権利憲章の最新の動向の調査(2019年4月~6月):アメリカやイギリス、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリアなどの国々の納税者権利保護の最新の動向について、文献調査や資料収集、ヒアリング調査を行った。2019年5月23~25日にミネソタ大学ロースクールで開催された「第4回納税者の権利に関する国際会議(4th International Conference on Taxpayer Rights)に出席し、各国の税務当局関係者や研究者、実務家と意見交換し、各国の納税者の権利保護の最新動向について調査を行った。調査結果を税理士新聞への紹介記事や「税制研究」への論文として寄稿した。 (2)モデル納税者権利憲章や納税者保護法制の調和や統一化の調査(2019年7~9月):2016年欧州委員会がEU各国の租税手続法制の調和と納税者と当局との信頼協力関係を深めるためのガイドラインとして提示した「欧州納税者法(European Taxpayers’Code)」のガイドラインのモデルの研究に取り組み、研究成果を論文として立命館法学に執筆した。 (3)税務行政のデジタル化と納税者権利保護の調査(2019年10月~2020年3月):上述の第4回納税者の権利国際会議での調査結果をふまえ、税務行政のデジタル化についてOECDやG20での国際的な議論の状況や、アメリカやイギリス、オーストラリア、日本の各国の動向などを調査した。とくに、税務行政へのビッグ・データの利用や納税者とのコミュニケーションへのAIの利用などと、納税者のデータやプライバシーの保護や税務行政の透明性・確実性の向上などをテーマに研究を進めた。その途中経過を2019年12月8日日本租税理論学会総会・大会において報告した。今後さらに研究を進め、学会等での報告や論文執筆を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)各国の納税者保護法制や納税者権利憲章の最新の動向の調査:各国の納税者権利保護法制や納税者権利憲章の最新の動向を調査することができた。とくに、「第4回納税者の権利に関する国際会議」への出席によって、アメリカやイギリス、オーストラリア、カナダといった当初の調査対象国に加え、南アフリカやニュージーランドなど幅広く資料や情報を収集することができた。また、今後の研究につながる人脈をつくれたことも大きいものと評価できる。 (2)モデル納税者権利憲章や納税者保護法制の調和や統一化の調査:従来から研究を進めてきた納税者権利憲章の国際モデルに関して、「欧州納税者法」のガイドラインのモデルの研究に取り組み、(1)で収集した資料や情報も活用しながら、EUにおける税務行政や納税者権利保護法制の調和について順調に研究を進め、研究成果として論文を公表することができた。 (3)税務行政のデジタル化と納税者権利保護の調査:OECDやG20諸国を中心に国際的会計事務所の情報なども活用しながら、電子申告や電子納付、番号制度、納税者のビック・データを利用した調査、AIを利用した税務相談や納税者とのコミュケーションなど、情報技術を利用した各国の税務行政のデジタル化の現状について情報や資料を収集することができた。また、それに伴い生じている納税者のデータやプライバシーの保護、税務情報のデジタルデバイドなどの課題も調査することができた。また、それらの研究成果の中間報告を日本租税理論学会において行ったことにより、今後の研究の方向性と計画が明らかになった。 そのほか、納税者権利保護の研究から派生して、税法の平易化や税制の簡素化の研究を行い、論文として成果を公表した。 以上のように本研究課題については、研究計画に基づきおおむね順調に進んでいるものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)税務行政のデジタル化と納税者権利保護の調査・報告:前年度の研究成果をふまえ税務行政へのICTやAIの利用の研究を進め、アメリカ、イギリス、オーストラリアやEU各国からIT立国として有名なエストニアやデンマークなどの北欧諸国、また近年デジタル化の進んだロシアや南米諸国などにも対象を広げて、その現状や納税者への影響の調査を行う計画である。また、昨年出席した「第4回納税者の権利に関する国際会議」での議論や人脈を活用しつつ、EUのデジタル・データ保護規則(GDPR)をはじめ各国における納税者のデータやプライバシーの保護の問題について研究を深めたいと思う。加えて、日本の「税務行政のスマート化」についてもその構想を諸外国と比較しつつ具体的に検討し、今後の進展の方向性と課題を含め、デジタル時代の納税者の権利保護のあり方について研究を進める計画である。なお、今後の新型コロナウィルスの流行の状況によるが、可能であれば本年度はオーストラリアかEUへの海外調査を行いたいと考えている。 (2)税務行政の国際化と納税者権利保護の調査:本研究課題のもう一つの柱である税務行政の国際化と納税者権利保護の研究に着手する。とくに2012年のOECDのBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの創設以降進展した情報交換や徴収共助などの国際的税務行政の協力の現状について、税務行政執行共助条約や金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」、BEPS防止措置実施条約などに関する文献・資料を収集する。そのうえで、EU各国で議論が進みつつある多国間の枠組みによる情報交換や徴収共助における納税者の権利保護の問題について、欧州司法裁判所の判例(たとえば、Berlioz事件など)や関連の文献を調査する。
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