研究課題/領域番号 |
19K01308
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
望月 爾 立命館大学, 法学部, 教授 (60388080)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 税務行政のデジタル化 / 納税者のプライバシー保護 / 電子申告・納付の進展 / 納税環境整備 / デジタル・デバイド |
研究実績の概要 |
(1)税務行政のデジタル化と納税者権利保護の現状の調査・報告 税務行政へのICTやAIの利用等のデジタル化の研究を進め、アメリカ、イギリス、オーストラリアやフランス、スペインなどEU各国、近年デジタル化の進んだロシアやメキシコ、ブラジルなどの南米諸国などにも対象を広げて、その現状や納税者への影響に関する文献・資料やウェブ情報の収集や、関係の国際的研究機関や団体のオンラインによるセミナーや研究会などに参加し調査を行った。その研究成果を日本租税理論学会の大会・総会や日本税法学会の研究会で報告を行い、論文として公表した。 また、日本の税務行政のデジタル化・スマート化について、近年のデジタル・ガバメント構想の進展や、デジタル庁創設に向けた直近の動きなどをふまえ、その進捗状況を諸外国と比較しつつ具体的に検討し、今後の方向性と課題を含め、デジタル時代の納税者の権利保護のあり方の研究を進めた。その成果を東京地方税理士会の研修会や、日本公認会計士協会租税調査会の専門委員会など実務家団体において報告や講演を行い、質疑や意見交換を通して税理士や公認会計士など実務家より税務行政のデジタル化の実務への影響についての意見を聴取し、論文を執筆した。 (2)国際的デジタル課税の問題の議論状況と税務行政の国際化の調査・報告 OECDのBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト以降進展した、国際課税のルールの見直しや国際的税務行政の協力の現状と問題点について、文献・資料やウェブ情報の収集による調査を行った。とくに、OECDやEUにおいて議論が進んでいるいわゆるGAFAに代表される多国籍企業グループに対するデジタル課税の問題と、税務当局間の情報交換や徴収共助など税務行政の国際化とその納税者への影響について調査を進めた。その研究成果を日本租税理論学会の大会・総会で報告し、論文を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)税務行政のデジタル化と納税者権利保護の現状の調査・報告 新型コロナウィルス感染症のため、計画していた海外調査を行うことができなかったが、IBFDやCenter for Taxpayer Rightsなど関連の研究機関や団体の主催するオンラインによる国際セミナーや研究会に参加し情報を収集した。あわせて、OECDやEUなどの国際機関、国際的会計事務所のBig4や各国の税務当局などのウェブ情報を活用しながら、ICTやAIなどを利用した各国の税務行政のデジタル化の最新の状況と、それに伴い生じている納税者のデータやプライバシーの保護、税務情報のデジタル・デバイドなど納税者の権利保護上の問題点を調査することができた。また、日本の税務行政のデジタル化やスマート化についても、デジタル庁の創設など最近の行政全体のデジタル化の動向もふまえ、政府税制調査会の納税環境整備に関する専門家会合における議論など行政情報を中心に調査を行った。それらの研究成果の報告や講演を、日本租税理論学会や日本税法学会の研究会、東京地方税理士会の研修会や日本公認会計士協会租税調査会の専門委員会などにおいて行い、学会誌や専門誌に論文を公表した。 (2) 国際的デジタル課税の問題の議論状況と税務行政の国際化の調査・報告 現在、OECDを中心に議論が進んでいる国際的デジタル課税の問題とそれに伴う国際課税のルールの見直しや、税務当局間の情報交換や徴収共助などの国際的税務行政の協力の現状と納税者への影響について、海外文献・資料やウェブ情報を収集し調査を進め、その成果を日本租税理論学会の大会・総会で報告し、論文や研究ノートなどを執筆できた。 以上のように本研究課題については、研究計画に基づきおおむね順調に進んでいるものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)各国の納税者保護法制や納税者権利憲章の最新動向の調査・報告 2020年、新型コロナウィルス感染症のため1年延期となった第5回納税者の権利に関する国際会議(5th International Conference on Taxpayer Rights) に2021年5月27日、28日にオンラインで出席し、テーマである「税務調査における納税者の権利保護」について調査を行い論文等を執筆公表する計画である。また、2021年は10月にも「途上国における納税者権利保護」をテーマに第6回納税者の権利に関する国際会議が開催される予定であり、これにも出席してアジア・アフリカや南米諸国などの納税者の権利保護の現状について調査研究の対象を広げるつもりである。さらに、従来から交流のある韓国や台湾、タイの研究者や実務家に協力してもらい、海外渡航が可能となれば現地でのヒアリング調査、難しい場合はオンラインでの調査を行う準備を進めている。 (2)税務行政のデジタル化及び国際化と納税者権利保護の総括と追加調査 2年間調査を進めてきた税務行政のデジタル化及び国際化と納税者権利保護について総括し、その現状と今後の課題について再検討する。とくに、EUを中心に議論となっている納税者のデータやプライバシーの保護と税務行政へのAIの利用の規制などの最新の状況を追加調査する計画である。また、国内外で進みつつあるデジタルトランス・フォーメーションの税務行政や納税者への影響についても、最新の議論の状況を調査する予定である。上記(1)の研究成果もふまえ、このような税務行政のデジタル化及び国際化と納税者権利保護の現状と課題を明らかにし、その「あるべき姿」を立法や税務行政のグッド・プラクティスのモデルとして論文または著作にまとめる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の流行のため、計画していた海外調査を実施することができなかったことから旅費の執行ができず、次年度使用額が生じることになった。そこで、文献・資料調査の購入費用やオンラインによる国際会議やセミナーへの参加費用、ウェブ会議システムを利用したヒアリングの実施の謝金などへの振り替えを行う計画である。とりあえず具体的には、2021年5月と10月に開催される第5回と6回納税者の権利に関する国際会議(International Conference on Taxpayer Rights)へのオンラインによる出席の準備費用や参加登録料などの費用に充てたい。また、今後の国内外での新型コロナウィルス感染症の流行状況によるが、オーストラリアや韓国、台湾など海外調査の旅費としての執行の可能性も引き続き探ることとする。
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