研究課題/領域番号 |
19K01308
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
望月 爾 立命館大学, 法学部, 教授 (60388080)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 税務行政のデジタル・トランスフォーメーション / 納税者権利憲章 / 納税者のプライバシー保護 / 税務行政へのAI利用規制 / 電子インボイス / 適格請求書等保存方式の導入 / 改正電子帳簿保存法 |
研究実績の概要 |
(1)各国の納税者保護法制や納税者権利憲章の最新動向の調査 2022年度は2022年5月18日から20日にアメリカのハーバード大学で開催された第7回納税者の権利に関する国際会議(7th International Conference on Taxpayer Rights) にオンラインで出席するなど、ポストコロナ世界におけるデジタル技術を利用した非対面の税務調査や徴収手続に対する納税者の権利保護についての最新動向の調査を行った。また、コロナ禍の影響のため海外調査は行えなかったが、韓国や台湾、インドなどのアジア地域や南アフリカなどアフリカ諸国の納税者権利保護法制や納税者権利憲章などについて情報収集を行った。さらに、国際的な研究グループの公表した納税者権利保護の最低基準としての新たな納税者権利憲章の国際モデルについて文献調査を行った。 (2)税務行政のデジタル化・国際化と納税者権利保護の研究の総括と追加調査 これまで研究を進めてきた税務行政のデジタル化・国際化と納税者権利保護の研究についての総括として、2022年10月29日から30日に立正大学品川キャンパスで開催された日本租税理論学会2022年度研究大会・総会のシンポジウム 「人権と税制・税務行政」において、「納税者の権利の国際的保護の進展」をテーマに報告と討論を行った。また、納税者のデータやプライバシーの保護と税務行政へのAIの利用の規制について、EUやアメリカなどの最新の状況を追加調査した。さらに、2023年10月に導入が予定されている消費税の適格請求書等保存(インボイス)方式とそれによって利用の拡大が予想されるデジタル・インボイス、2024年1月から本格的に適用される改正電子帳簿保存法の影響やその問題点について調査を行い、東京地方税理士会制度部会や立命館大学オンラインプレスセミナーなどで報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)税務行政のデジタル化と納税者権利保護の現状の調査・報告 2022年度も新型コロナウィルス感染症の流行ため、計画していた海外調査を行うことができなかったが、関連の国際的な研究機関や団体の主催するオンラインセミナーや学会・研究会に参加し資料や情報の収集を行った。また、OECDやEUなどの国際機関、国際的会計事務所のBig4、各国の税務当局などのウェブ情報を活用しながら、各国の税務行政のデジタル・トランスフォーメーションの最新の状況とその納税者の権利保護上の問題点を調査することができた。とくに、EUやアメリカにおけるデータ保護やAI規制についての研究を行った。また、2023年10月に導入が予定される消費税への適格請求書保存(インボイス)方式やデジタル・インボイス、2024年1月からの改正電子帳簿保存法の本格施行など、日本の税務行政のデジタル化の現状と課題に関しても調査を行った。それらの研究成果の報告や講演を、日本租税理論学会の研究大会や東京地方税理士会制度部会などの実務家団体などにおいて行った。 (2) 税務行政の国際化の調査・報告 経済のデジタル化やグローバル化が進展する中で進みつつある税務行政の国際的協力の現状と納税者への影響について、海外文献やウェブ情報を収集し調査を進め、その現状と課題を整理した。 以上のように本研究課題については、研究計画に基づき調査を進めてきたが、計画していた台湾または韓国への海外調査を実施することができなかったことから、その意味ではやや遅れているものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)各国の納税者保護法制や納税者権利憲章の最新動向の調査・報告 2023年5月24日から26日に南米のチリのサンチャゴで開催される第8回納税者の権利に関する国際会議(8th International Conference on Taxpayer Rights) にオンラインで出席し、テーマである「司法審査とADR(代替的紛争処理)と納税者権利保護」について調査を行う計画である。とくに、納税者権利保護法や納税者権利憲章などが実際の司法過程においてどのように適用され納税者の権利救済につながっているか、アメリカの納税者権利擁護官やカナダやオーストラリア、スペイン、イタリアなどの納税者オンブズパーソンなどの役割も含めて調査研究を行いたい。また、新型コロナウィルスが収束傾向にあり海外調査も可能となったことから、2023年度中に近年納税者権利保護法が制定・施行され、税務行政のデジタルトランスフォーメーションが進みつつある台湾への現地調査を行う予定で準備を進めている。 (2)税務行政のデジタル化・国際化と納税者権利保護の総括・最終まとめ 4年間調査を進めてきた税務行政のデジタル化・国際化と納税者権利保護の研究について、日本租税理論学会の2022年度研究大会・総会での報告や討論もふまえ総括し、その現状と今後の課題について再検討する。また、デジタル・インボイスの義務化や税務行政へのAI利用など税務行政のデジタル化の新たな問題についても、さらに国内外の最新の情報を収集し、研究を進める計画である。そのうえで、本研究全体の総括として、上記(1)の研究成果もふまえ、税務行政のデジタル化や国際化と納税者権利保護の現状と課題を明らかにし、その「あるべき姿」を立法や税務行政のグッド・プラクティスのモデルを含めた最終報告としての論文にまとめ公表する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度も前年度に引き続き新型コロナウィルス感染症の影響のため、計画していた海外調査を実施することができなかったことから旅費の執行ができず、次年度使用額が生じることになった。そこで、2023年度は新型コロナウィルスも収束傾向にあることから、海外調査を実施し、その旅費等で残額を使用する計画である。調査先としては、近年納税者権利保護法が制定・施行され、準備を進めてきた台湾を予定している。また、2023年5月24日から26日にチリのサンチャゴで開催される第8回納税者の権利に関する国際会議(8th International Conference on Taxpayer Rights)などオンラインによる国際会議や国内外の学会・研究会などへの出席費用や参加登録料などの費用に充てたい。そのほか、残額があれば一部は海外文献や資料の購入費用としても使用する計画である。
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