研究課題/領域番号 |
19K01309
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研究機関 | 中村学園大学短期大学部 |
研究代表者 |
橋本 一雄 中村学園大学短期大学部, 幼児保育学科, 准教授 (30455084)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会統合 / 多文化共生 / ライシテ / 教育の自由 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究成果は、雑誌論文1編、著書(分担執筆)1冊及び学会・研究会発表1件であった。学内紀要に投稿した論文はフランスにおいて多義的な意味を持つ「教育の自由」という概念について、近代公教育法制が成立した第三共和制期の議論を基に考察したものである。本研究課題は、戦後フランスの移民政策の転換点と見ることのできる2004年宗教的標章着用禁止法制定以降の移民政策の分析を目的の1つとしているが、本稿は「教育の自由」が有する複数の意義のうち「教育による自由」ともいうべき「国家による自由」としての「教育の自由」の意義を明らかにすることを目的としたものである。その意味で、本研究課題の基盤となるフランスにおける「教育の自由」の概念に関する研究成果の一部を発表することができた。 また、分担執筆した著書(共編著)に収録された論稿のうち、フランスの保育・幼児教育に関する論稿を投稿したことも研究成果の1つである。本稿では、フランスにおいてそれまで6歳以降(小学校以降)であった義務教育期間の始期が、3歳以降(保育学校以降)に繰り下げられたことの意義について論じた。2018年3月のマクロン大統領及びブランケール国民教育大臣の演説等によれば、その目的は3歳の時点で保育学校に就学しないごくわずかな「郊外」に住む子どもたちに対する教育格差を解消することにあり、当該教育政策もフランスの移民政策にルーツを持つものであることを論じた。 学内の研究会においては、フランスの公立学校がハラール食提供の義務を負うか否かについて、近年、行政最高裁判所であるコンセイユ・デタが下した判決を報告し、フランスのライシテをめぐる学校給食に関する論点に関しても研究の歩みを進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度の研究計画は主に以下の2つであった。 1つは、本研究に着手した2019年度以降に収集してきた資料・文献にもとづき、フランスの「教育の自由」の意義のうち、いわば「教育による自由」ともいうべき「国家による自由」としての「教育の自由」の意義を明らかにすることである。特に、2004年の公立学校における宗教的標章着用禁止法、2005年の学校基本計画法(新教育基本法)及び2010年のいわゆるブルカ禁止法といった新法の制定は、2000年代以降のフランスの移民政策の転換と密接に関わるものであり、雑誌論文にその研究成果を公表することができたので、この点に関する当初の目的はおおむね達成することができた。 2つめとして、フランスの現地調査としてインタビュー調査等を実施することを当初の研究計画として盛り込んでいたものの、新型コロナウィルス禍によって渡仏することができず実施できなかった。その代替としてオンラインでのインタビュー等も当初は計画したものの、2021年度も新型コロナウィルス禍が続いたこと、またインタビュイーとの調整が整わなかったこと等から実現には至らなかった。 他方、フランスの保育・幼児教育及び学校給食をめぐる裁判等の調査・研究の過程において資料・文献を追加で入手することができたとともに、現地の研究者・関係者へのEメールによる調査・聞き取り等を実施した。その過程で、本研究課題の中心的テーマであるフランスの移民政策に関する資料・情報を入手することができたことは収穫であった。 これらの状況を勘案し、現在までの研究の進捗状況としては「やや遅れている」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
延長した研究期間となる2022年度の研究計画としては、前年度に実現できなかった渡仏しての現地調査を着実に実施する予定である。特に、2020~2021年度にかけての新型コロナウィルス禍の中、フランスの個別の政策においてイスラム系移民等に対する差別や宗教的自由の侵害が問題となったケースはなかったか、国家の緊急事態下における宗教的マイノリティへの処遇等に関する調査は、本研究課題が取り組むイスラム系移民への「隠れた差別」の有無を調査するうえでも極めて重要な意味を持つ。現地調査ではこの点の調査・研究を進める予定である。 併せて、当初の研究計画であったイスラム系移民等の就職状況等の調査・分析を行う予定である。この点は、2021年度までに収集した資料・文献にもとづく研究を主とする予定であるが、前述のとおり、新型コロナウィルス禍において、特に2020~2022年度にかけての宗教的マイノリティの就職状況等を調査・分析することは本研究課題が取り組む本質的な問いを明らかにするうえでも極めて重要な意味を持つものと思う。渡仏調査にあたっては、こうした新型コロナウィルス禍という状況の下での最新の資料・情報・文献の入手にあたる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス禍により、予定していた渡仏しての現地調査が実施できなかったことが主たる要因である。これに伴い研究計画全体に遅れが生じており、関連して研究成果の発表のための旅費等も支出するに至らず、次年度使用額が生じることとなった。 2022年度は渡仏しての現地調査を実施する見込みであり、繰越額は当初予定していた調査旅費、学会発表旅費、謝金及び物品費として使用する予定である。
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