2023年度は本研究期間の最終年度を迎えるにあたり、新型コロナウイルス禍を経たフランスの移民統合政策を分析するため、前年度まで行ってきた資料・文献の収集を継続して行うとともに、それらの精読と分析を行った。本研究では、フランスの社会統合政策としての教育政策に焦点をあて、移民統合政策の分析を行ってきたところであるが、2023年度は、首脳の記者会見内容やこの間に施行された法令、官公庁が発表したその他文書等を入手・検討し、新型コロナウイルス禍での政策についての分析を加えることで、本研究の総括を行った。その結果、フランスの社会統合政策としての教育政策に内包される2つの側面、すなわち、近年のフランスの教育政策が児童生徒の教育格差の是正を一段と図ろうとする一方、戦後のフランスで行われてきた積極的差別是正政策としての優先教育(EP:education prioritaire)の結果として、児童生徒の就職格差の改善には至っていない状況を捉えることができたものと考えている。 本研究では、在外研究期間であった2019年度にフランスの学校教育の視察やインタビューを行い、併せて主要な資料・文献の収集等も行って研究の基盤を形成したものの、その後、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って研究計画の大幅な変更を余儀なくされた。渡航が制限されていた期間には、WEB等を通じて資料・文献を収集し、その分析を行うことが研究の中心となったが、この過程で、緊急事態に直面したフランスの政策を分析することができたという副次的な成果もあった。 本研究の計画段階においては、肯定的に捉えられていたイスラム系私立学校への私学助成についても、フランス政府は、2023年度に入りその方針を転換する兆しを見せている。こうしたフランスの教育行財政制度の新たな局面については、今後、さらなる分析を行う予定である。
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