コロナ禍のみならず、家庭内や健康上の問題が複合的に影響したため、これまで研究代表者として科研費を受給して研究してきた12年間のうちで最も生産性の低い年度となったことは否めない。 公表した実績としては、(1)北極海航路において自動運航船を運航させるためのシステム整備に関連する国家補助・ダンピング規制のあり方(特にWTO協定等に基づく国際法上の義務との整合性)に関する報告を2021年4月に国際学会において行ったこと、(2)2021年1月に発足したバイデン政権下において、貿易救済措置にとどまらず政府調達の文脈においても原産地規則の操作を続ける方針が維持されたことがWTO協定体制に対してもたらしうるシステミックな影響について2021年9月に研究論文を公開したことが太宗となる。並行する研究は徐々に進展しているものの、研究成果として公表したり、これまで3年間の研究成果の集大成としてまとめたりするまでには至らなかった。 ただし、外国での新たな調査を行えなかった中でも、事業初年度までに萌芽的研究として手を出してきた他国の制度上のいくつかの課題について、あらためて資料を掘り返して再検討し、研究を展開させられたのは、不幸中の幸いであった。たとえば、本研究課題と連続する内容を持つ前研究課題(16K03316: 2016年度から2018年度)の期間中から仕掛り中の、米国とカナダの国境地帯における特殊な国境管理体制と通商法規制の運用に焦点を当て、その迂回の恐れに対して取られてきた対応について、すでに収集済みの資料を利活用して調査・分析を進めた。その成果物は、2022年度前半には査読誌等に投稿するなどして公表する予定である。同様に、19世紀末のハワイにおける通商規制等、萌芽的な研究に関する調査も進捗が見られる。研究課題期間の終了後ではあるものの、できる限り科学研究費助成事業に基づく成果の公表に努める。
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