研究課題/領域番号 |
19K01313
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
玉田 大 神戸大学, 法学研究科, 教授 (60362563)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 国連海洋法条約 / 客観訴訟 / 国際海洋法裁判所 / 附属書VII仲裁 / 原告適格 |
研究実績の概要 |
国連海洋法条約の紛争解決手続において客観訴訟が認められるか否か、という問題意識のもと、関連する学説と判例を抽出し、詳細に分析した。議論自体はICJにおける民衆訴訟の議論の影響を受けており、特に権原紛争を巡って民衆訴訟(客観訴訟)が認められるか否かが論じられていた形跡が見られる。ただし、その後の学説の発展はさほど見られない。これに対して、判例上ではいくつか関連する動向が見られ、客観訴訟が認められるであろうという印象を得るに至った。特に、ICJで2012年に初めて客観訴訟が明示的に認められて以降、この判断が大きな影響を与えたものと考えられる。特に、国際海洋法裁判所の深海底紛争部による勧告的意見では、ほぼ客観訴訟を容認したと思われる判断箇所があり、注目に値する。ただし、勧告的意見であること、傍論に過ぎないと思われること、これまでのILCの議論枠組みとやや異なること、など、不明瞭な点が多く残されており、客観訴訟が認められた、という確定的な判断とは言い難い。ただし、この勧告的意見が2012年のICJ判決(ベルギー対セネガル)に影響を与えたという学説もあり、恐らくこの評価が正しいと思われる。 なお、断片的であり、未だ本格的な分析を要するものであるが、以下の拙稿を発表した。玉田大「国連海洋法条約の紛争解決手続における客観訴訟の可能性」芹田健太郎・坂元茂樹・薬師寺公夫・浅田正彦・酒井啓亘編『実証の国際法学の継承―安藤仁介先生追悼』(信山社、2019年12月)583-604頁。上記のように、学説と判例を簡単に整理し、まとめたものであり、客観訴訟が認められるか否かについては、決定打に欠ける(そもそも、客観訴訟を確定的に認めた判例が未だ存在していない)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い、国連海洋法条約の紛争解決手続における客観訴訟に関して、基本的な学説および関連判例の分析を進め、ほぼその内容をまとめることができた。特に、関連する判例に関しては、国連海洋法条約上のものについてはほぼ分析を完了しており、研究成果の第一弾として、論文「国連海洋法条約の紛争解決手続における客観訴訟の可能性」を発表することができた。なお、判例の大枠を把握することができたものの、なお、その他の国際裁判との比較検討や具体的事案における適用可能性については課題として残っている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の拙稿において、国連海洋法条約上の紛争解決においても、客観訴訟が認められる可能性が高いという点を指摘した。ただし、確定的に客観訴訟を認めるという判断は示されておらず、判例動向を今後も注視しておく必要がある。また、分析の中で、権原取得紛争の特殊性や議論の独自性について明らかになってきているため、この点を加味する必要があると考えている。すなわち、客観訴訟の中に幾つかの類型があり得る、という点の分析に踏み込む必要がある。2020年度からは、こうしたきめ細かい点の分析に移行していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題に適した洋書の手配に手間取り、次年度会計で処理することとなったため。2020年度早々に当該洋書を取り寄せ、会計処理を行う予定である。
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