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2021 年度 実施状況報告書

国連海洋法条約の紛争解決手続における客観訴訟の可能性

研究課題

研究課題/領域番号 19K01313
研究機関京都大学

研究代表者

玉田 大  京都大学, 法学研究科, 教授 (60362563)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード国際裁判 / 国連海洋法条約 / 客観訴訟 / 国際司法裁判所 / 原告適格 / スタンディング / 紛争概念
研究実績の概要

第1に、国連海洋法条約における紛争解決制度の全般的な研究を進めた成果として、中国・大連海事大学のZou Keyuan教授との共編著書の出版に漕ぎつけた。その中で、紛争解決手続に関与した日本の実行を分析し、個々の事案において如何なる法的議論を展開し、裁判所の判断に如何なる影響を与えたのか、明らかにした。また、日中の共同研究の成果を英語で発表したのは、恐らく初めてのことであり、まずは日中間での研究者の共同研究が可能であることを示すことができた。内容については、論文集では一般的なことではあるが、質の確保が問題となる。この点は今後の課題としたい。
第2に、国際裁判における客観訴訟の判例分析を進めた。国連海洋法条約の紛争解決手続における客観訴訟に関しては、以前に判例を広く分析したものを発表しているが、その後、大きな展開を示す判例は見られない。他方、人種差別撤廃条約(ICERD)の調停手続において大きな展開が見られ、調停手続を集団実施(collective enforcement)と捉える新たな視点が示されている。この判断を詳細に分析し、その結果を海外雑誌に発表した。
第3に、客観訴訟を分析する際に大きな論点となる「紛争」概念について研究を進めた。客観訴訟においては原告適格・スタンディングの拡張が焦点となるが、裁判手続との関係でより深刻な問題は、伝統的な「紛争」の定義を用いると、客観訴訟に馴染まないという点である。そこで、国際司法裁判所と国連海洋法条約紛争解決手続における「紛争」に関する判例を洗い出し、分析を開始した。暫定的な結論ではあるが、伝統的な対立概念に依拠した「紛争」定義だけではなく、原告国による一方的な紛争発生メカニズムが一定程度認められつつあることが明らかになった。成果は今後発表する予定である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

第1に、国連海洋法条約の実施に関する日中の共同研究の成果として、英語の著書を刊行することができた。日中の研究者を各章に1名ずつ配置し、外見上、対話形式となっている。近年、中国の国際法研究には目覚ましい進展がある中、南シナ海事件仲裁のように、中国政府にとって極めてセンシティブな内容があり、実際に日中共同研究の成果を発表するのは至難の業であった。他方で、共同研究を通じて、中国研究者が必ずしも政府見解を繰り返しているだけではなく、個々人の研究の結果を発表しようとする動きが垣間見える点は有意義な成果であった。
第2に、人種差別撤廃条約の調停手続を分析した成果が英文雑誌に掲載された。以前から注目されていたように、パレスチナ対イスラエルの案件であり、イスラエルの留保のため、通常であれば国家間通報手続・強制調停手続が機能しないと考えらえるところ、人種差別撤廃委員会の判断では、調停手続を集団実施と同様に捉えた上で、委員会の管轄権を認める判断が示されている。この点を詳細に分析することにより、多数国間条約における客観訴訟の可能性を一部明らかにすることができた。
第3に、紛争概念についての研究を進め、一定の成果を発表している。客観訴訟との関係ではなお分析を要するが、領土主権紛争に関しては、国連海洋法条約の紛争解決手続における沿岸国訴訟を用いることによって、領土主権紛争の存在についての確認判断を得ることが可能であることが明らかになった。

今後の研究の推進方策

本来、2021年度で終了する予定であったが、2022年度まで延期していることから、今年度の研究計画について触れておく。
第1に、国連海洋法条約の紛争解決手続における「紛争」概念について分析を進める。上記のように、客観訴訟において問題となるのは、原告適格に加えて「紛争」定義であると考えられるところ、近年の判例においては、伝統的な対立型紛争発生メカニズムに加えて、一方的紛争発生メカニズムが認められつつある。とりわけ、国際海洋法裁判所の判例においてこの傾向が顕著に見られる。今後、客観訴訟との関係で新しい紛争発生メカニズムが争点になると考えられるため、判例分析を進める。
第2に、上記との関係で、国際裁判一般における「紛争」概念の定義についても分析を進める。「紛争」概念に関しては、1924年以来、常設国際司法裁判所と国際司法裁判所の長い判例の歴史があるため、これを概観した上で、訴訟当事国の法益の有無と紛争の存否の関係について分析を進める予定である。

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍のため、予定していた海外出張を延期している。また、海外の研究者との間での国際共同研究の実施や国際シンポジウム等も延期されたり、あるいはオンライン実施となっており、海外出張のための支出が抑えられている。2022年度に繰り越している分については、引き続き研究に必要な図書購入に充てると同時に、海外出張・国内出張を再開することによって使用する予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Inter-State Communication under ICERD: From ad hoc Conciliation to Collective Enforcement?2021

    • 著者名/発表者名
      Dai Tamada
    • 雑誌名

      Journal of International Dispute Settlement

      巻: 12(3) ページ: 405-426

    • DOI

      10.1093/jnlids/idab018

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [図書] Implementation of the United Nations Convention on the Law of the Sea: State Practice of China and Japan2021

    • 著者名/発表者名
      Dai Tamada and Keyuan Zou (eds.)
    • 総ページ数
      254
    • 出版者
      Springer
    • ISBN
      978-981-33-6954-2

URL: 

公開日: 2022-12-28  

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