研究課題/領域番号 |
19K01314
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岩本 禎之 (李禎之) 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (20405567)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際裁判 / 宣言判決 / 司法的救済 / 満足 |
研究実績の概要 |
本研究は、国際裁判所における「宣言判決」に着目することで、国際裁判法と国家責任法の境界領域にある司法的救済の法的意義および現実的役割を解明する理論的かつ実践的な研究である。昨年度から引き続いて「宣言判決の内容と位置付け」を整理する作業を進めたが、2年目となる2020年度は宣言判決の法的性格付けを検討した。 宣言判決を「満足(Satisfaction)」)と位置付けている国際判例の整理を行い、大きく3つの類型が確認できた。まず、精神的損害(moral damage)に対して宣言判決が下されており、それらは「満足」と性格付けされている。こうした類型は国家間仲裁裁判や投資仲裁の裁判例においても確認でき、それらは金銭賠償とは明確に区別される賠償的要素を持つ救済として学説上も位置付けられている。また、交渉義務等の手続的義務の違反に対する救済としての宣言判決の存在も確認できた。そこでは、損害との因果関係が不明ないし立証困難であっても命じることができると考えられており、賠償的な要素と懲罰的な要素がともに含まれているものと位置付けられる。他方、ジェノサイドの認定のように実体的義務の違反(とりわけ、重大な人権侵害)を認定する宣言的判決も確認できた。この類型は賠償的要素が希薄であり、「懲罰(Sanction)」としての違法確認と位置付けることができる。ただし、この類型を公法的救済(Public Law Remedy)として一般的に性格付けし得るかについては、本年度に他分野(人権裁判所や投資仲裁の判例)との比較検討が十分に行えなかったため、留保したい(引き続き次年度に取り組む予定である)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症の影響により海外調査をはじめ出張を伴う計画が全てキャンセルとなったこともあり、分析の検証作業に遅れが生じている。とりわけ、ICJ以外の分野(人権や投資)については、専門家との意見交換が十分にできておらず、作業を積み残している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年積み残した検証作業を進めつつ、「救済方法の選択法理」を実証的に検討するフェーズへと進む予定である。その際、救済選択に対する当事国意思の影響という視点から分析を進め、2021年度は非訟的事件における救済に焦点をあてて検討する。領域紛争における主権侵害の宣言判決につき国際判例は分岐していることから、判決の「形成的性質(constitutive nature)」(ガーナ対コートジボワールITLOS判決)と「被告国の善意」の影響(コスタリカ対ニカラグアICJ判決)という観点から分析を行い、非訟的事件における責任紛争に対する救済のあり方を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度同様、新型コロナウイルス感染症の影響により、海外調査をはじめ出張を伴う研究計画が実施不可能となり、延期・再調整せざるを得なくなった。また、購入を計画していた書籍の刊行も遅延している。いずれも状況が落ち着き次第、実施する予定である。
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