研究課題/領域番号 |
19K01314
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岩本 禎之 (李禎之) 岡山大学, 社会文化科学学域, 教授 (20405567)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際司法裁判所 / 宣言判決 / 司法的救済 |
研究実績の概要 |
2021年度からは前年度までの「救済」概念の整理・性格付けを踏まえつつ、「救済方法の選択法理」について検討を行う。その際、本研究は救済選択に対する当事国意思の影響という視点から分析を進めることとした。救済方法選択の原則は、第一義的には原告国の意思(国家責任条文第43条2項)に依存すると考えられるが、本研究では被告国意思の影響にも着目し、本年度(2021年度)は領域紛争に関する裁判(非訟的事件)における救済について検討を行った。 領域紛争における主権侵害の宣言判決について、国際判例は分岐していることが確認された。すなわち、「自国領だと信じて行った行動」は他国(=領域国)の主権侵害と事後的に評価され得るかという論点である。ITLOS特別裁判部(ガーナとコートジボワールの海洋境界画定に関する紛争事件(ガーナ対コートジボワール)、2017年9月23日)は、判決の「形成的性質(constitutive nature)」を理由として主権侵害の宣言判決を回避しており、こうした実行は宣言判決の「懲罰性」を裏側から例証するものと評価できるかもしれない。しかし、これに追随する裁判例を確認できず、判例として定着するに至っていない。他方、ICJは、コスタリカ対ニカラグアの諸事件(国境地帯におけるニカラグアの活動事件2015年12月16日判決、ポルティリョス島北部の陸地境界事件2018年2月2日判決)で、被告国の(自国領であるとの)認識は主権侵害の宣言判決に全く影響を与えないと解しており、あくまで当事国間の二辺的関係で原告たる領域国に与えられる「満足」と位置付ける傾向が強いことがわかった。 なお、COVID-19を国際法から検討する国際法学会からの依頼を受け、国際司法裁判所における対中訴訟の可能性について、本研究課題の救済方法を絡めた研究成果を公表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「救済」概念の整理を踏まえて、事例分析を進めることができた。 COVID‐19企画に関連した研究業績を公表できた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、被告国の意思の影響という観点から、裁判所が救済における履行裁量(「自ら選ぶ方法で」)を被告国に認める判例について検討を加える。こうした実行について、宣言判決が履行・執行問題を回避するための手法となっていることに鑑み、コンプライアンス理論(compliance theory)も活用した分析を行う。 また、領域紛争にかかる問題(2021年度)について、論考公表に向けて研究成果をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度同様、新型コロナウイルス感染症の影響により、海外調査をはじめ出張を伴う研究 計画が実施不可能となり、延期・再調整せざるを得なくなった。また、購入を計画していた書籍の刊行も遅延している。いずれも状況が落ち着き次第、実施する予定である。
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