研究課題/領域番号 |
19K01315
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
明石 欽司 九州大学, 法学研究院, 教授 (00288242)
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研究分担者 |
小栗 寛史 放送大学, 総務部総務課, 特別研究員 (80837419)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際法史 / 主権 / 国家主権 / ボダン / 神聖ローマ帝国 |
研究実績の概要 |
2019年度は、研究計画にしたがい、「主権及びその類似観念の系譜の研究」に従事した。その結果、次の2点の結果を得た。 まず、16世紀の後半に「絶対にして永遠の権力」として「主権」(summa potestas)を観念したのはボダン( J. Bodin )であったが、その後の近代国際法の構築者たちは、ボダンの造語である「主権」ではなく、古代ローマ由来の対物支配権(dominium)と対人支配権(imperium)という観念を以って主権者たる属性を論じていたことを、主要な国際法概説書の記述を検討することで明らかにした。 また、神聖ローマ帝国が19世紀初頭に至るまで欧州中央部に存在していたことによって、帝国と帝国内の領邦との関係や諸領邦間の関係という複雑な主体間関係が存在し、かかる現実問題に対処するために「主権」観念以外の観念(Suprematus, jus superioritatis, superioritas territorialisなど)が生み出されたという状況も、あわせて明らかとなった。 以上の研究成果は、「主権」を論じるために主として「国家主権」にのみ着目してきた従来の国際法史研究を問い直すという意味で学術的な意義を有するものである。また、従来の国際法史研究においては、過去の思想家たちのテクストの読解という営為なしに政治思想史研究の成果が無批判に採り入れられていたが、このような従来の研究状況に対する反省を含みつつ、国際法学者がこれらのテクストを主体的に読んだ上で、政治思想史における過去の研究成果との総合を図ろうと試みた点に、今年度の研究における方法論上の学術的意義があったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に即して、代表者・分担者ともに予定通りの研究の進捗があったため。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は「主権観念の内包の研究――対内/対外主権の区別と主権者・国家主権の観念的分離」に従事する。 近代国際法学における主権観念の成立史を研究する上で検討を要するもうひとつの課題は、ボダンの主権観念が「対内主権」についての議論であり、さらに「主権者」と「国家主権」とが観念的に分離されていなかったということである。一般に、国際法学において、国家の「対外主権」を定式化したのは17世紀後半のヴァッテル(E. de Vattel)であると理解されてきたが、ヴァッテル以前の議論が彼の著作に与えた影響については明らかにされておらず、「主権者」と「国家主権」との観念的分離の問題も含めて、主権観念の内包を明らかにすることが求められる。換言するならば、政治哲学上の観念として生まれた「主権」観念がどのようにして近代国際法学に受容されたかを明らかにする作業である。
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