研究課題/領域番号 |
19K01320
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
石堂 典秀 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (20277247)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スポーツ法 / 国際人権法 / アスリートの権利 / 子どもの権利保護 |
研究実績の概要 |
2020年度は、2本の論文を著した。1つが、「子どもを暴力・ハラスメントから守るための法制度:オーストラリアの子どもに関連する仕事チェック(刑事記録チェック)法を参考にして」である。オーストラリアでは、「子どもに関連する仕事(刑事記録チェック)法(Working with Children Act)」(以下、WWC 法)が制定され、子どもと接する仕事に就く場合には、性犯罪などの前歴がない証明を受けた人だけが、運転免許証のようなカードの発行を受けることが義務づけられている。このような制度が世界的な潮流となってきている。昨今のわが国でも子どもたちへのわいせつ行為による懲戒免職を受けた教職員がさらに別の地域で再雇用される実態が明らかになってきている。また、『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』が日本の部活動における体罰の実態調査において日本における根強い体罰文化の存在を指摘している。暴力・ハラスメントの根絶を目指すためにもグローバルスタンダードである同制度の運用が必要である考える。 もう1つの論文が、「パブリックフォーラムとしてのオリンピック:オリンピックとアスリートの表現の自由」である。2020年1月に、国際オリンピック委員会(IOC)は、2020東京オリンピック大会で選手が拳を挙げるような表現活動を禁止するガイドラインを発表した。これは、アメリカで始まった人種差別抗議運動Black Lives Matterの世界的な広がりに対抗するものといえる。オリンピック憲章規則50は、これまでも政治的なプロパガンダを禁止してきた。国民の表現の自由は憲法等で保障されているところであるが、選手の表現の自由を制限する規則は果たして国際人権法において適法といえるのか、その歴史的系譜から近年のスポーツ界における国連「ビジネスと人権の指導原則」の受容から検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年は2本の論文発表の他にも、「安全なサッカー・ヘディングの指導で関連事故から子どもを守る」シンポジウムにおいて、「海外におけるヘディング規制の背景と最近の動向について」報告を行った。そこでは、ヘディングなどにより脳震盪に至らない軽微な脳への衝撃が蓄積されることで、後年になってアルツハイマー認知症などの症例がサッカー選手にみられることから、子どもたちへのヘディングを禁止するアメリカやイギリスでの取り組みを紹介した。子どもたちが安全・安心にスポーツを行う環境の制度設計について展望を行った。 コロナ禍で海外での実地調査は困難となったが、その反面、Zoomなどの使った国際的なオンライン会議に参加できるようになり、多くの研究者や実務家の方々と交流する機会を増やすことができるようになった。その意味では、入手できる情報量も増え、調査研究資料も充実してきているといえる。今後は、これら入手した資料をもとに論文として公表したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年8月に開催される予定であった、ヨハネス・グーテンベルク大学マインツ・筑波大学共同主催の「第10回International Sport Business Symposium」が延期され、2021年8月に再度、実施される予定になっている。本来であれば、この国際会議において報告予定であった、「メガスポーツイベントにおける国際的な人権保障の新たな動向(A New Trend towards Human Right Protection in Sport Mega Events)」(英語による報告予定)に関する原稿を最新の国際的な動向も踏まえながら、ブラッシュアップしたいと考えている。同報告では、東京五輪組織委員会策定の「持続可能性に配慮した調達コード」の運用状況も含めた、メガスポーツイベント開催に係る人権保障のための評価項目やこれらの実際上の運用の課題について報告したいと考えている。また、これら報告内容は論文(英文)にて発表予定である。 また、コロナの状況如何によっては、スイスを中心とした海外調査(IOC,FIFA,CASなど)を実施したいと考えているが、場合によってオンラインによるヒアリング調査についても検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの影響のため、国内・海外調査を実施することができなかったため、旅費費用などが未使用となった。そのため、次年度使用額が発生した。今だコロナウイルスの影響が懸念されるところであるが、状況を見ながら現地調査を実施したいと考えている。
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