研究課題/領域番号 |
19K01322
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
加藤 陽 近畿大学, 法学部, 准教授 (90584045)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際法 / 多元主義 / 国連安全保障理事会 / 国際人権法 / 国際立憲主義 / EU法 |
研究実績の概要 |
本年度は、初年度の理論的研究と前年度の実証的分析を統合し、研究全体のまとめを実施した。すなわち、複数の法秩序の関係をめぐっては、国連憲章を中心とした垂直的な統合に依拠するもの、統合を企図せずに分散的な秩序を主張するもの、さらには、分散性と統合の折衷的立場を主張するものに分類される。それぞれに対応する判例を各理論に分類し、その理論構成や安保理の対応を検討することにより、3つの理論の妥当性と実践的帰結を明らかにした。 その結果、本研究が支持しうる多元主義の理論を確定した。上記第1の立場は、当初は受容されたかに見えたが、その国連中心主義的秩序論は実践において拒絶された。人権規範に依拠する第3の立場は、確かに統合のより現実的方途を示しているが、裁判所の法的議論に混乱をもたらしている。欧州司法裁判所の判決に対する国連安保理の応答は、本研究の支持する第2の立場の意義を明確に示している。個人を対象とする安保理制裁は、その手続の細部にまで個人の利益に配慮した改革を実現させた。とりわけ制裁対象となった個人が請願を提出し、それについて報告書をだすオンブズパーソンのプロセスは、安保理の制裁の運用に大きな影響を与えた。換言すれば、複数の法秩序の統合を目指さずに分散的状態を維持する中で、複数の秩序の間の相互作用による動的変更は、諸秩序の間の平和的共存に向けた均衡状態を創出した。 以上のような法秩序の間のやり取りは、Friedmann(1964)の示した国際法論に照らすと興味深い展望を得ることができる。すなわち、現在の国際法によって一般的に支持される「協力の国際法」よりも、むしろ「共存の国際法」を再定義することにより、多元的国際社会の現状に対応する方途が検討されなければならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、初年度の理論研究と前年度の実証的分析を統合することであったが、この目的はおおむね果たせた。ただ、研究をまとめる最終段階で、多元主義において相互作用を規律する規範的要素の重要性が明らかになり、これについて検討を完了させることはできなかった。これとの関係では、「研究実績の概要」に記述した第2の立場と第3の立場の理論的相違をさらに詳細に考察する必要がある。これらは本研究の重要な不可欠の側面をなすため、引き続き本研究を継続しなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主張する多元主義の理論について、相互作用に基づく動的変更という意義を論じることはできたが、その規範的側面がまだ十分に検討できておらず、そのためにさらに時間が要すると考えたため、科研費の「補助事業期間延長」に申請し、事業期間を延長した。今後は、多元主義の諸理論における規範的側面にさらに焦点をあて、本研究が依拠する理論的立場を修正し、再構成することが求められる。その際には、Friedmann (1964)が整理した「共存の国際法」の概念に着目しつつ、議論を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年同様、新型コロナウィルス感染症の問題により研究活動に著しく制約が生じたため、経費を使用する機会が減少した。とりわけ各種学会や研究会はオンラインになったために、旅費などの経費が発生しなかった。
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