研究課題/領域番号 |
19K01328
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
青柳 由香 法政大学, 法学部, 教授 (60548155)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 公共調達 / 競争 / 市場 / 経済活動 |
研究実績の概要 |
20年度は、国家、地方自治体、および公的役割を担う主体等がおこなう公共調達(ないし購買行為)に対して、競争法的な観点から規律をすることの必要性に関する検討を行った。EUのFENIN事件判決とイギリスのBetterCare事件審決(およびその他の加盟国内の事例および状況)を比較することを通じて、上述のような主体による公共調達ないし購買活動を経済活動としてとらえ、競争法的規律の対象とするか否かについての、異なる立場があること、それぞれの立場がとる判断の枠組み、またそれに対する学説による批判等を検討した。 EUでは経済活動性が否定され、それにより競争法の適用対象ではないとされた。この背景には、EUが加盟国の国内医療制度等に競争法を通じて介入することを好まなかったことがあるという指摘が学説および法務官意見においてみられる。他方で、そのような事情が存在しなかったイギリスおよび他の加盟国では、上述のような主体による購買行為の経済活動性を認定することを阻害する要因がなかったことが明らかになった。この点を背景として、FENIN事件判決に対する広範かつ極めて厳しい学説の批判を踏まえると、日本法への示唆として、公的主体等による購買行為に対して何らかの競争法的な規律を検討する余地があるといえるという結論に達した。そのような規律の在り方としては、独禁法における事業者に関する解釈を広げる、公共調達のルールに競争法的観点による規律を加える等がありうる。 以上の議論は、論文として成果を公表する(脱稿済み)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題全体に関する事例や文献の収集、および下読み等が順調に進んでおり、論文も執筆することができたため、全体の進捗としてはおおむね順調であるといえる。 他方で、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大を理由に、海外での文献収集(日本で収集することが困難な文献を対象とする)ができておらず、また、欧州の研究者とのディスカッションは、従前より交流がある研究者とのZoom会合のみとなっている。文献収集をすすめ、かつ、より多くの研究者との意見交換をすることで、広い知見および最先端の議論・問題意識を反映させた研究を実現していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従って、今後は公共調達の方法(入札等)についての検討を進める。2020年度の研究を基盤に、特に公共調達がもたらす市場における競争制限効果に関する検討を深化させていく。この点は、判例、先行研究、政策文書等を素材に検討を行う。 また、EUにおける現行の公共調達制度が、いかなるものであり、どのような競争法的観点を有しているかを検討した上で、学説等を参照し、現行制度への批判等を検討する。これにより、EUにおいて考えられている公共調達制度の功罪が明らかになる。 これらを参考にすることによって、日本への示唆として、公共調達の国内の市場競争への影響を低減するためにはどのような制度設計・規制が望ましいかを検討する。 以上の各段階の検討は、成果として論文や研究会・学会報告として公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染の世界的拡大により、国内・国外ともに出張ができなかった。状況が変わり次第、すみやかに計画していた出張を行いたい。
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