研究課題/領域番号 |
19K01329
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
石畝 剛士 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (60400470)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 医療保険 / 介護保険 / 公法上の契約 / 契約構造 |
研究実績の概要 |
本研究は,医療保険制度と介護保険制度に内在する法律関係の中でも特にその契約関係に焦点を当て,民法学と社会保障法学の従来の知見を基礎に据えつつ,その法的構成の再検討を通じて,両制度全体を貫く契約構造を明確化することを主目的とする。また,それと同時に,典型的には両制度に見られるような,「公的制度に内在した契約」一般に通底する契約法理を構築するための基礎を導出することも視野に入れる。 これら公的制度の内側に存在する契約関係は,「契約」と称されているにもかかわらず,従来の研究では,もっぱら社会保障法学がその対象としており,民法学からのアプローチは数少なかった。そのため,かかる「契約」が,伝統的な民法上の「契約」概念とどのような位相(共通点・相違点など)にあるのか,ひいては,公的制度による変容ないし修正を受けた契約法理を民法学の対象としていかなる形で構築しうるかは,未解決の問題となっている。 こうした問題背景に照らし,具体的な研究項目として挙げられるのは,【1】医療保険・介護保険制度における契約関係・債権債務関係の性質と内容の確定,【2】同制度で予定される法的概念と民法上の概念との共通点・相違点の明確化,【3】公的制度に内在する(修正的)契約法理の抽出である。 本研究を遂行することで,両制度に内在する私法的関係(契約当事者関係や債権債務関係など)が明確化されると同時に,これら公的制度上の「契約」概念が析出され,新たな契約類型としての法的位置づけが明らかとなると思われる。また,公的制度に内在する私法関係の把握,特に,公的制度の修正を受けた形で顕現する契約法理一般の抽出についても一定の知見が得らるものと考えられる。更に,この作業を進めることにより,他の社会保障制度のみならず行政契約をも視野に入れた,「制度と契約」に関する次なる包括的研究への基盤を構築することが,本研究の最終目標となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年度の研究計画につき,まず2019年度前半は,日本において入手可能な文献をもとに,日本法とドイツ法における医療契約論の展開を中心にその内在的理解に努めることを目標とした。このうち日本法に関する研究は「公的医療保険における一部負担金の性質と構造(1)(医療保険の契約構造2)」法政理論[新潟大学]第52巻第1号(2019年)89-127頁として,その成果の一部を公表し,遠くない内にその続編も完成する予定である。この論文により一部負担金の法的性質の一端を明らかにできたといえ,この点での研究は順調である。 次に2019年度後半から2020年度前半は,主にドイツ医療保険法(社会法典第5編)における契約内容の分析に研究の比重を置くことを予定していた。そのための必須の作業として,研究代表者が以前在外研究を行ったミュンスター大学にて必要資料の複写や現物調達を図ると共に,当地の社会保障法研究者にドイツ法及び医療保障制度の現在の状況を伺うことを計画していた。 しかし,新型コロナウイルス感染拡大の影響により,2019年度中の渡独計画は断念せざるを得なくなり,同様の状況が2020年度以降も継続している。現在,手持ちのドイツ文献・資料を読み進めているところではあるが,膨大な文献の中から特に本研究に必要な部分を現認して入手し,もって研究の効率化を図るという渡独目的が叶わない状態で,研究の内容や手法について試行錯誤を繰り返しているところである。また,新型コロナウイルス感染拡大の影響により,学内行政においても新たに一から決めなければならない案件が多く,その処理に忙殺されていたことも,偽りのない事実である。以上より,本研究の射程とアプローチ方法も含め再検討を迫られていると共に,研究期間の延長をも視野に入れて取り組んでいる状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究計画が,上記事情から当初予定の半分にも満たない進捗状況であるため,2021年度はこの点の巻き返しを少しでも図るべく,研究に取り組む。具体的には,第一に日本法に関して,「公的医療保険における一部負担金の性質と構造(1)(医療保険の契約構造2)」の後半部分(2・完)の公表を行うことを目的とする。現在,同論文は80%ほどの進捗具合であるため,2021年度の秋を念頭に仕上げるところである。また,この作業と同時並行的に,従来の民法学において分析がほぼ皆無と言ってよいほど手薄であった,審査支払機関の法的位置づけについて検討を深め,同機関と保険医療機関ないし保険者との(私)法的関係について分析を進めているところである。この点の研究進捗具合は50%程度であり,引き続き研究を深化させ,2021年度の冬には公表できるよう努めていく。 第二にドイツ法に関しては,当初の計画とは大幅に異なる状況となっている。2020年夏に予定していた渡独は不可能であったため,現地での文献資料収集及び現地研究者との情報交換は,未だ見通しが立っていない。差し当たりは,日本で入手しえた文献を読み進めると共に,可能であれば,2021年度の夏に渡独する可能性をなお探っていきたい。仮にそれが難しい場合には,現時点で利用可能な文献支障を基礎として,ドイツ法の医療保険・介護保険の制度枠組とその法的構成を,とりわけドイツにおいてどのような契約法理がそこで構築されているかという視点から分析する作業を進める。もっとも,それだけでは情報の偏りが大きく,なお質的に不十分であると判断する可能性が高い。従って,この場合には,研究計画を1年延期して当初想定した内容及び質の研究を確保することも想定に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,2019年度の終わり(2020年2月頃)に,必要文献資料の収集と研究効率化のための打ち合わせを目的として,研究代表者が以前に在外研究を 行ったドイツ・ミュンスター大学に2週間ほど滞在することを予定していた。しかし,新型コロナウイルスの世界的拡大により,ドイツ渡航の危険性(具体的には現地罹患と帰国困難の危険性)が現実化し,学内における渡航自粛要請もあったことに伴い,2019年度は現地に赴くことを断念した。そのため,2019年度に予定したドイツ渡航関連費用(交通費,滞在費用,文献複写,書籍購入費用等)は2020年度予算に繰り越し,2020年9月に3週間ほどの期間で改めて渡独することを予定していた,ところが,2020年度も新型コロナウイルスが終息する気配は一向になく,むしろ感染が拡大している情勢である。このような状況に至った結果,2020年度中の渡独は再度断念せざるを得なくなった。従って,2020年度に繰り越したドイツ渡航関連費用は,やむなく,そのまま2021年度に繰り越さざるを得ない状況となっている。2021年度も9月に渡独する計画を立ててはいるが,その見通しは決して明るくない。本研究は比較的研究蓄積が薄い分野であり,かつ,ドイツの制度及び現状把握のためには現地調査をすることが必要不可欠であるという本研究の特性に照らすと,研究の1年延長をも視野に入れざるを得ない。
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