本研究は、当初、医療保険制度と介護保険制度に内在する法律関係、特に契約関係に着目し、社会保障法学の成果を取り込みつつ、その法的構成の再検討を通じた、両制度全体を貫く契約構造の明確化を主目的としていた。また、こうした作業により、両制度に典型的に見られる「公的制度に内在した契約」一般に通底する契約法理を構築すべく、その基礎的知見の手掛かりを得ることも視野に入れていた。 尤も、研究成果を振り返ると、当初予定と異なり、研究対象を医療保険制度に絞らざるを得なかった。これは、①医療保険制度と介護保険制度は一定の類似点を有しつつも、その債権債務の帰属や内容が大きく異なることが判明し、②結果、第一義的には医療保険の研究に絞って緻密な検討を行わない限り、続く介護保険の研究との詳細な比較が困難と判断したことによる。また、現実的事情としては、③介護保険制度に関するドイツ法文献につき、昨今の事情により、現地での調査及び収集が不可能となった点も大きい。 残された課題はあるものの、医療保険の研究については一定の成果を獲得できた。具体的には、保険者・保険医療機関・被保険者の三者関係に、いかなる内容の契約がどこに帰属するかという問題をほぼ明らかにできた。最終年度は、上記に加え、特に審査支払機関とこれら三者との法律関係の明確化を図ることもできたという成果も挙げられる。同時に、同制度が予定する法的概念は、民法上の概念装置を用いて説明しても不整合とはならないが(相当程度の互換性がある)、公的制度に内在する契約は、公法上の規定に基づき生ずる法定契約や法定債権(公法上の契約/公法上の債権)といった、私法上の契約にはない特殊概念があり、この点で別段の考慮を要することなど、一定の知見を得ることができた。以上を踏まえて、今後、「制度と契約」に関する次なる包括的研究への基盤を構築するための研究を継続していきたい。
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