研究期間の最終年度にあたる本年度は、わが国における疾病予防、健康増進施策の経緯を再検討するとともに、医療保障制度との接点および交錯領域がどのように変化してきたかを分析した。その上で、両者を統合する視角として健康保障法という理論枠組みの成立可能性について検証を行った。健康保障法は、疾病予防を社会保障法の一部門として積極的に位置付けようとする学説であるが、そこで想定される疾病予防は、疾病の早期発見を目的とした健康診査(二次予防)を中心としたものであった。その他の公衆衛生施策は、個人の権利保障としての性格をもたないため、社会保障法の守備範囲からは除外されるという理解が一般的であった。近年、生活習慣病の予防を目的として実施されている特定健診・特定保健指導は、一次予防施策と位置付けられるものとなっている。このため、健康保障法の視角から今後の理論的展開を図るにあたっては、こうした一次予防も包摂できる理論枠組みを構築する必要性があることを確認した。その上で、健康保障とデータヘルスとの関係、かかりつけ医の役割、疾病予防も視野に入れた診療報酬のあり方などについても検討を行い、こうした分析をもとに論文を執筆した(2022年7月に公刊予定)。 また、上記の作業に加えて、諸外国の医療制度改革について分析を進めた。第1に、イギリスの新たなNHS改革についてサーベイであり、論文として公表した。第2は、アメリカのメディケア改革と薬価抑制対策の動向であり、2022年に研究報告書の一部として公刊予定である。
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