研究課題/領域番号 |
19K01332
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
清水 泰幸 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(教員養成), 准教授 (90432153)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 社会保障法 / フランス / 家族給付 / 所得再分配 / 貧困 / 家族手当 / 家族係数 |
研究実績の概要 |
フランスの家族給付の研究について、前年度から引き続いて行ってきたものとして、紙幅の制約により概括的なものになってしまったが、家族給付制度を通観する論文を上梓した(清水泰幸「フランス編第2部 IV家族給付」『新・世界の社会福祉 第2巻 フランス/ドイツ/オランダ』167頁(旬報社,2019年))。この中では、家族給付に関する検討を一通りカバーしつつ、近年、注目された改革として、①家族手当の支給要件への所得制限の導入、および、②離婚後の養育費の不払いの問題と家族支援手当改革をクローズアップした。 本研究課題では、所得再分配を主要なテーマとしているところ、2019年度はその初期段階の作業に力を注いだ。まず、家族給付を構成する各種手当を順次分析することを目指して、手始めに家族支援手当の成立過程と制度理念、及び、現在の動向について研究を進めた。この研究成果については、2019年7月の関西社会保障法研究会において報告したところである。フランスでは、養育費を未払いである親に対して扶養責任を果たさせることを重視しつつも、現実がそれに追いついていかないことから貧困問題が生じ、近年の諸改革に連なった。他方で、この問題は、ひとり親を対象としたワークフェア的な最低所得保障との連続性のもとで捉える必要を改めて認識した。 次に、家計のスケール感の把握なくして、再分配政策の理解は中途半端になってしまう恐れがあるため、フランスの所得税制に関する分析に着手した。フランスでは、多子家族を対象として国家が税制上の優遇を手厚く与えることが知られており、すなわち、N分のN乗方式と呼ばれる所得税の計算方式、および、多子を計算要素として取り入れる家族係数の研究を進めている。これらの理念を研究することは、フランスにおける家族観を理解するために重要と思われるため、歴史的な文書も含めて調査を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の家族支援手当について、研究には予想よりも時間と労力が必要なことが明らかになり、現在、計画遂行上の課題となっている。最低所得保障については、できれば言及せずに済ませたかったこともあったが、やはりこれを含めて見取り図を再構成する必要を認識した。フランスでは2000年代にひとり親施策が改革され、よりワークフェア的な最低所得保障のもとで実施される傾向が強くなった。すなわち、ひとり親について、家族支援手当と最低所得保障が重複的に作用する場面が生じており、言い換えれば、貧困施策と家族政策の交錯が政策課題として顕在化したことを表している。このことにつき、実務面および制度理念の双方で考え直す必要が出てきた。 また、2019年度と2020年度は、フランスでの現地調査として、養育費の回収の実務を視察することを計画していたが、2019年度はこれがかなわず、2020年度についても可能かは、新型コロナウイルスの流行が収束するかに掛かっており、明らかではない。養育費の徴収は、日本では司法の役割に期待されているところが大きいが、フランスでは、行政部門に連なる家族手当金庫がこれに従事している。すなわち、家族支援手当を支給した家族手当金庫が扶養債権を代位し、他方の親から養育費を徴収するという仕組みを採用しており、こうしたシステムにおいて、実務での実現可能性をどのように担保しているのか、また、他方の親とのトラブル等への対応について調査する予定だったが、新型コロナウイルスの流行によりこの実地調査が行えていない。 実地調査を行わないことが本研究課題の遂行に致命的な影響を与えるかは定かではないが、法的根拠を有するにしても「ある制度が回る」のは、その国における社会的なコンセンサスに支えられているところは大きく、やはりこの点は実地で調査したいところである。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の中心的な関心事は所得再分配であるが、長期的な視点で見たとき、フランス家族給付を網羅的に研究する必要を認識するようになった。この点につき、少なくとも法学的な観点からの研究は日本では皆無であり、長期的な視点で見た場合、本研究課題の遂行と並行して、各種手当の沿革や法的性格を順次明らかにし、家族給付の全体像を明らかにすることが視野に入りつつある。逆に言えば、そのようにしなければ、フランスにおける家族給付あるいは家族の概念について、その把握は難しいのではと思い至るようになった。 特に第3子以降を優遇する傾向は、表面的にはその政策的重要性は理解できるのだが、フランスでは、このことについて社会的なコンセンサスが確固として形成されており、子育てを私事とみる日本社会の「常識」によれば、理解しづらいところである。また、人口政策に由来する意図だけでは説明しきれないと見られる。そこで、こうした点をより深く掘り下げて、フランスの家族観に関する深い考察が必要になったと考えている。 他方で、当初予定していた2019年度と2020年度のフランスでの実地調査が可能であるかは、まったく読めなくなってしまっている。また、2020年の春は、勤務校で遠隔授業の準備のために、時間および労力をかなり費やしてしまった感は否めず、しばらく研究に集中できない状況が続いた。 上述したように、実地調査についてはさらなる延期も想定しつつ、1年ずつ繰り延べして、本研究課題の研究期間を当初3年間としていたところを、4年間に延長することも考えている。その間の費用については、研究費を節約するなどして対応は可能であると考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの世界的な流行により、フランスでの現地調査を見合わせたため、その旅費の分を次年度に繰り越した。状況が改善すれば、2019年度に予定していた現地調査は2020年度に、2020年度に予定していた分は2021年度に行う予定である。
|