本研究課題の最終年度となり、コロナ禍の終息によりこれまで実施できなかったフランスでの実地調査を行うことができた。とりわけ、日本の児童手当において議論されている所得制限の意義について、および、家族優遇政策により危惧される社会の分断について、日仏を比較しつつ貴重な知見を得られた。 まず、フランス経済情勢研究所にて、フランス家族給付の普遍性と所得制限をテーマとしてインタビューを行った。所得制限の有無が普遍性のメルクマールとされてきたことについて、そもそもフランスでは第1子に家族手当を支給しておらず、所得制限と普遍性という論点自体がミスリードであるという重要な指摘を得られた。確かに所得制限の撤廃が出生率の向上に寄与するというのは観念的な想定に過ぎない。そうすると家族手当の普遍性という論点は家族政策の妥当性という平面には乗らず、むしろ再分配政策をめぐるスタンスの違いでしかないかもしれない。 次に、全国家族手当金庫にて実務面に軸足をおいたインタビューを行うことができた。全国家族手当金庫は公法人として実務を担っており、このインタビューではフランスにおける家族観および人々の意識が再配分政策に与える影響について知見を得られた。とりわけ、フランスでは子どもを持つことについて、価値中立的な意識が広く共有されており、日本で見られるような子育て世帯とそれ以外の分断(すなわち、子育て世代が特権を享受しているという誤解に基づくもの)は社会的文化的背景に依存する部分が大きく、この分断は特殊日本的な文脈で読み解く必要を認識するに至った。 このようにして得られた知見、すなわち社会的文化的な要素も含めて研究を遂行しているが、再分配政策は人々に自覚的に認識されないことも多い。したがって、こうした議論の前提を揃えることが非常に困難であることにも直面している。
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