研究課題/領域番号 |
19K01338
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
上田 真理 東洋大学, 法学部, 教授 (20282254)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 移動の自由の条件 / コロナ禍 / 労働市場改革 |
研究実績の概要 |
本研究は、ドイツで実施された労働市場改革(2003-2005年)を手掛かりに日本と比較研究を行い、「低賃金と生活保護」ではない、「次世代に負担を先送りしない」雇用・生活保障の解明を目的としている。 日本の雇用政策は、働き方の多様化を一層すすめ、「行過ぎた雇用維持型から労働移動支援型の政策転換」をはかってきた(「失業なき労働移動」)。さらに、近年の「働き方改革」により「雇用によらない働き方」がすすめられている。一方。ドイツでは低賃金労働が「失業よりまし」という考えの下で促進され、また、小規模起業(Ich-AG)の支援も創設した。その後、低賃金労働が拡大し、法政策上は「個人請負」又は「従業員がいない『個人事業主』」の生活保障が争点になった。日独の課題は共通している。 本研究は2020年度に、主として、コロナ禍による影響も強くうけ、女性及び高齢者の非正規労働者に加えて、自営業者・フリーターの脆弱さが浮き彫りになったことが日本での特徴であることを明確にした。 さらに、新たに、職業訓練による「良質の雇用」への移行支援は、ドイツの文献を参考にしながら、新たな働き方が促進される場合に必要であるというだけではなく、むしろ働く者が有する労働市場における移動の自由の一つの条件であることを解明した。この研究の前提になるのは、少子高齢化社会のコロナ禍により「将来の労働」は、すべての人にディーセントで収益の多い仕事を再構築の土台とするように転換が必要である、ということである。労働市場での移動自由には不可分に社会保障の権利が付随していると考えられないだろうか。加えて、コロナ禍により転職を迫られる労働者にとって、転職・転換のための職業資格・教育(requalification)が不可欠な要請である 。まして失業者の急増が予測される状況においては「休業」の経済的保障はもとより、転換への職業教育も、移動自由を可能にする条件である、と帰結できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
感染拡大の予防のため、研究の方法が文献を中心にした比較法になっているが、コロナ禍が働く者にいかなる影響を与え、そしてどのような特徴があるのかを、ドイツだけではなく国際機関の研究成果も確認した。こうした作業により日本の従来の雇用政策や生活保障の脆弱さを確認したことにより、職業教育と社会保障の権利が労働市場での移動の自由の条件になることを解明できた。
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今後の研究の推進方策 |
ドイツでのヒアリングの実施が2021年度も困難である場合に、とくに専門職労働者の養成と若者の生活保障のありかたを、文献研究をもとにしつつ、オンラインでのコンタクトやメールのやりとりなどを通じて解明することにしたい。コロナ禍は、日本でも福祉・看護職の働き方と生活の劣化も問題になっている。ドイツでは、福祉職は低賃金雇用のため生活保障の課題に直面する一方、看護士、保育士、高齢者福祉職の教育訓練を統一する法律が2017年に成立し、新たな職業訓練と雇用保険・求職者支援法が交錯する注目すべき領域での展開を調査する好機であるといえる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該補助金に次年度使用が生じた理由は、2020年度当初の研究計画ではドイツの労働市場改革による生活保障について、ドイツでのヒアリングや研究者との意見交換を予定していたところ、これらの実施が不可能になったことである。それに代えて、ドイツの研究機関や研究者による調査報告書などを基に政策や議論状況を確認した。そうした方法の相違のため、旅費に予定した費用をはじめとし、少なからぬ差額が生じた。2021年度の助成金と合わせて、文献を中心に引き続き情報を収集し、可能な時期がくれば現地でのヒアリングを実施する。なお困難な状態が継続する場合には、情報を収集できる書籍・データーを充実させ、意見交換をもとに資料として作成する予定である。
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