ドイツの雇用政策では低賃金雇用の拡大や、雇用によらない働き方の増加が、従来の労働法の理念である「標準的労働関係」(期間の定めのない、フルタイムの直接雇用であり、社会保険加入義務がある雇用である)の「危機」といわれる現象が問題になってきた。当初は、失業を克服するために、低賃金労働を拡大したが、1つに、家族がいる労働者が生計を維持するのに社会保障を必要とすること、2つに、それは、生活困窮者への社会保障により次世代への負担になる働き方・生活状況であることが、問題になってきた。3つに、現役世代の後にやってくる高齢期の生活は、「高齢者貧困」問題を生じさせる。このような問題状況を、ドイツでは、一方で、租税によるドイツ型基礎年金を2022年から導入し、そして、生活困窮者に対しては「市民手当法」として改正をしている。市民手当法の制定過程において重視されてきたのは、単に労働市場に早く参加して、どのような仕事でもつくのではなく、むしろ職業継続教育(Weiterbildung)である。また、低賃金労働のすべてではないが、女性が多く就く福祉サービス労働、保育士の職業資格付けを改正している。 他方で、労働市場に加えて家族の変化も大きいため、育児・介護自体をどのように国家が支援するのかについても、連邦憲法裁判所での争点になってきた。すべての育児をする者にとって、育児期間を承認し、平均賃金を得ている期間と同様の評価をする。だが、それだけでは高齢者貧困を解決することは到底できないため、育児と就労の両立の実現可能性を保障することは、労働政策と家族政策の重要な課題になっている。それは、市民手当法となっている生活困窮者にとっても、とくにひとり親に「フルタイム」就労を要請するのか、子の年齢を考慮して育児を承認しつつ、長期的には生活可能な就労につくことができるように職業教育を受ける権利が重視されている。
|