本研究の目的は,審判対象および争点の設定の仕方と裁判所の事実認定の相関関係を明らかにし,それを踏まえた事実認定の枠組みの理論的可能性を探ることにある。 本年度は,本研究の最終年度にあたるため,前年度に引き続き,各種文献および裁判例等の分析,検討を進めるほか,過失犯に関する事実認定をめぐる近時の下級審裁判例の傾向を分析,検討したところを,研究者と裁判官からなる研究会において,本研究成果の一部として報告した(「過失犯における注意義務違反(運転避止義務違反)を根拠づける具体的事実の訴訟的取扱い」〔判例刑事法研究会,2021年9月〕)。主として,検察官による訴因の設定,公訴提起後の訴因変更の必要に関する論点に関わるものであり,事実認定に携わる裁判官と種々の意見交換を行った。 また,認定すべき事実の量・密度に関わるものとして択一的認定の問題を位置づけ,検討を進めた。択一的認定の問題が,訴因の特定,訴因変更の要否と密接な関わりを有することはすでに知られているところであるが,本研究では,検察官の訴因の立て方そのものが,その後の訴因変更,択一的認定の要否に大きく影響を及ぼすとの考え方を前提に検討を進めてきた。上記の研究報告もこれを踏まえたものであったが,過失犯以外の犯罪類型および犯罪構成要件についてにも検討の範囲を広げた。現時点までに,検討の具体的成果を発表するには至っていないが,近々公にする予定である。
|