研究課題/領域番号 |
19K01346
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
原田 和往 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (20409725)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 私人による証拠収集 / 内部調査 / 協議・合意制度 / 国家行為 / ステイト・アクション |
研究実績の概要 |
本年度は,研究計画のうち,まず,連邦控訴裁判所の多数によって採用されている判断手法のもととなったとされるUnited States v. Walther, 652 F.2d 788 (9th Cir. 1981)の分析を行った(研究計画(3)3)②参照)。その結果,当該手法が,私人の当該証拠収集行為に対する捜査機関の認識の有無,証拠収集行為を行う私人の意図・目的如何の2つの要素に特に着目するものであることを明らかにした。 次に,捜査・訴追機関の依頼や命令が存在しないとしても,企業の調査担当者による証拠収集行為が,国家の行為(state action)と評価されるのは,如何なる事情が存在する場合かという問題(研究計画(3)3)③参照)について,2019年にニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所が示したConnolly決定(United States v. Connolly, 2019 WL 2120523 (S.D. N.Y. 2019)を分析した。その結果,同決定の判断構造が,まず,修正5条の自己負罪拒否特権に関するGarrity判決を起点とし,行為主体が私人の場合に同判決の法理が直接には及ばない点について,問題の行為を国家行為と見做すことができるかを検討し,これを肯定した上で,Garrity判決が禁止する制裁的手段を用いて得られた供述は,Kastigar判決のもと,免責証言に汚染された証拠が使用されたかを検討するものであることを明らかにした。本研究との関係では,特に,前者において,内部調査が実施されていた期間における捜査の実態を詳かにし,実質的な捜査が行われていない点を指摘している点が注目される。取締当局から企業の内部調査に対し,明示的且つ強度な干渉が存在しない場合に,企業の内部調査を捜査・訴追機関の活動と評価する際の手法として示唆に富むものといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では,2020年度以降に,①連邦控訴裁判所の多数によって採用されている判断手法のもととなったとされるUnited States v. Walther, 652 F.2d 788 (9th Cir. 1981)を分析すること,②法執行機関が私人による証拠収集活動が行われることを認識し得る状況が存する事例を収集し,上記の判断手法に従って結論が示される過程において,具体的に如何なる事情が考慮されているかを分析すること,③捜査機関の依頼や命令が存在しないとしても,企業の調査担当者による証拠収集行為が,捜査機関の行為と評価されるのは,如何なる事情が存在する場合かについて,得られた比較法的知見を整理することの3つを予定していた。 このうち,本年度は,①と③を遂行することができ,①の一部と,③については,研究成果を論文として公表することができた。②については,収集した裁判例の分析を全て終えたわけではないが,研究開始直後から取り組みを進めており,今後予定している,④関連するわが国の裁判所の判断の整理・分析と併せて,2021年度中には,分析を終えることができる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2021年度は,研究計画のうち,②法執行機関が私人による証拠収集活動が行われることを認識し得る状況が存する事例を収集し,上記の判断手法に従って結論が示される過程において,具体的に如何なる事情が考慮されているかの分析を終えた上で,④関連するわが国の裁判所の従前の判断との整合性に留意しながら,具体的な判断手法を提示する予定である。 なお,②に関しては,昨年度の実施状況報告書でも言及したが,インターネットサービス関連企業の行為について,国家行為該当性を認め,修正4条にいう捜索にあたるとの判断を示した裁判例も分析する予定である。内部調査に関わるものではなく,本研究が着目する問題状況とは前提を異にしているが,理論的な問題状況は同じといえる。この事件の法定意見を執筆したNeil Gorsuch裁判官は,現在,連邦最高裁判所の裁判官になっており,私人による証拠収集活動に対する法的規律について,今後の連邦最高裁判所の判例の展開を追う上で,有用といえるからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症のため,当初,出席を予定していた学会・研究会の開催が取りやめになり,また,他大学等における文献調査・収集活動が実施できなくなったため,旅費等を執行することができなかった。2020年度は,新型コロナウイルス感染症拡大に伴い無償で公開された,HeinOnline等の電子ジャーナルサービスを利用することで,研究計画に大きな支障は生じなかったが,無償公開は,2020年末で終了したため,2021年度は,次年度使用額を利用し,他機関における文献調査等を行う予定である。但し,新型コロナウイルス感染症の拡大状況次第では,期間限定の有償の電子ジャーナルサービスを利用する予定である。
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