ヘイトスピーチの多元的規制の在り方について研究し、最終年度はとりわけインターネット上のヘイトスピーチに対する規制について研究した。 この問題は以下のように整理できる。一つには、ドイツのように、①ネット上のヘイトスピーチに対応可能な刑罰法規(民衆扇動罪)を整備し、それを前提に②違法情報に対する適切な削除等の体制整備義務を罰則付きでプロバイダに課す法律(NetzDG)を制定するといった、いわゆる立法論を展開する方法がある。もう一つには、立法論が難しければ、③ヘイトスピーチのうち現行法下で可罰的な領域を検討し、④それに関するプロバイダの刑事責任を検討するといった、いわゆる解釈論を展開する方法がある。 これに対する成果としては、①については、日本でも、インターネット上のヘイトスピーチについて、平穏生活環境を危殆化する社会的法益侵害情報と位置付け、蓄積犯として規制する立法論を展開する余地があることを明らかにした。②については、そもそも①の存在を前提にするので、日本での即座の展開は困難であると思われるが、③については、ドイツの集団侮辱の解釈を参考に、一見して不特定型であるが特定型のヘイトスピーチとして名誉毀損罪・侮辱罪の成立が認められる類型がありうることを明らかにした。 ④については、現在の裁判例を検討すると、一定の場合はプロバイダの刑事責任を問われる場合は想定できるが、ヘイトスピーチ関係では極めて限定的な規制とならざるをえないが、継続性、拡散性といったインターネットの特性を考慮した場合はより広い範囲を共犯として処罰する解釈が可能であることを明らかにした。
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