研究課題/領域番号 |
19K01351
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田口 守一 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 名誉教授 (80097592)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 合意制度 / 課徴金減免制度 / 企業犯罪 / 国際刑法学会 / 危険社会 / 訴訟構造 |
研究実績の概要 |
(1) 本研究課題の中核的問題の一つとして、合意制度の問題点を考察した。論文はドイツのウルリッヒ・ズィーバー教授の古稀祝賀論文集に寄稿したので、「日本刑事訴訟法における合意制度の課題-比較法的視点から-(Aufgaben von Absprachen in der japanischen Strafprozessordnung,Eine rechtsvergleichende Betrachtung)」と題してドイツ語で執筆した。 (2) 企業犯罪に関して、2019年11月にローマで開催された第20回国際刑法学会に出席した。日本法に関して執筆した報告書“Morikazu Taguchi, New Development in Investigation Proceedings and Sanction Systems for Corporate Crime in Japan”が学会発行の図書に掲載された。なお、国際刑法学会決議「代替的法執行制度による経済犯罪の予防、捜査および制裁に関する決議」を日本語に翻訳した。また、関連論文の翻訳も行った(ウルリッヒ・ズィーバー/田口守一=松田正照訳「安全法の新構造-グローバル化した危険社会における犯罪の抑制-」刑事法ジャーナル60号)。 (3) 多機関協働的刑事司法論は多元的刑事司法制度の機能面に関する研究であり、多元的刑事司法制度は各種の犯罪類型に対応した多様な手続構造を持った司法制度の統合形態である。そこで、これまでの訴訟構造論の再検討のために、H. Coing et al., Die Japanisierung des westlichen Rechts、および、M.Damasuka, Structures of Authority and Comparative Criminal Procedureを研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)当初の研究計画に従って2019年11月にローマで開催された第20回国際刑法学会大会に出席し、第3分科会報告者であるウルリッヒ・ズィーバー教授との研究打合せの他、ドイツからの出席者との意見交換、中国からの参加者との意見交換および日本からの参加者との情報交換などができた。また、ローマ第3大学のマウロ・カテナッチ教授と意見交換をし、日本の合意制度に関するドイツ語論文をイタリアの論文集に掲載することとした。 (2)日本の独占禁止法改正としての裁量的課徴金減免制度の導入につき、2019年1月段階では公正取引委員会が改正案の国会提出を断念したが、その後、2019年6月に同改正案が国会で成立すると同時に、公正取引委員会規則において弁護士依頼者間秘匿特権が一部承認されたことを踏まえて、刑事訴訟法の合意制度と独占禁止法の裁量的課徴金減免制度の紹介とその問題点についてドイツ語の論文を執筆した。当初の計画時点ではこのような展開は予想できなかった研究の展開であった。この論文は日本語に訳して本研究課題に関する論文集『刑事訴訟の構造』に収録予定である。 (3)本課題研究は「刑事訴訟の構造」として「多元的刑事司法制度」の機能に関する「多機関協働的刑事司法制度」の提言にあるが、その理論的核心は「新たな当事者主義」と「新たな職権主義」の理論を明らかにすることにある。そのため、西洋法に由来する当事者主義・職権主義の概念がいかにして「日本化」してきたかと解明するために”Die Japanisierung des westlichen Rechts"の論文集の研究と新たな構造原理にとって示唆的である”Structures of Authority and Comparative Criminal Procedure"の論文の研究に着手した。 (4)こうして当初の研究計画はおおむね順調に実施できている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)当初2020年度に予定していた改正独占禁止法の研究は、同改正法が予想より早く2019年に成立したので、これに関する論文(ドイツ語)を2019年度内に執筆することができた。したがって、2020年度には研究計画を少し前倒しして『刑事訴訟の構造』の論文集に収録する論文で新稿の部分の執筆を進行させたい。 (2)新たな刑事訴訟構造論の核心は、「新たな当事者主義」の構築にあるので、たまたまイタリアの研究論文集に論文を寄稿する機会があるので、「日本における企業犯罪との戦いに関する新たな挑戦(Neue Herausforderungen hinsichtlich Bekaempfung der Unternehmenskriminalitaet in Japan )」の論文を完成させたい。 (3)2019年度から研究を進めている「西洋法の日本化」の論文および刑事訴訟構造につき「階層モデル」と「対等モデル」を提唱したダマシュカ教授の論文、そしてその延長線上に位置するケーガン教授やフット教授の論文を参考にしながら、「新たな当事者主義」と「新たな職権主義」に関する基礎理論を完成させたい。 (4)その上で、多元的刑事司法制度論と多機関協働的刑事司法制度においては、国家機関のみならず弁護人、被疑者・被告人自身、犯罪被害者、裁判員あるいはとくに企業犯罪においては企業自身(法人および従業員)が重要な手続の担い手となることから、これらの新たな手続担い手の位置づけを明らかにしたい。 (5)これらの論文を収録した『刑事訴訟の構造』の論文集の原稿を、できれば2020年度中に脱稿したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)研究図書の購入を年度内に行うことができなかった。 (2)すでに図書の発注は済んでいるので、次年度には(大学の閉鎖が解除された後に)手続が可能となる予定である。
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