本研究は、被疑者取調べの適正化・極小化の見地から、わが国の刑事手続と整合的・適合的な弁護人立会制度を模索・構想することを究極的な目的とする。 近年、欧州諸国を中心に、諸外国においては、その法体系・法制度の違いにかかわらず、人権保障のミニマム・スタンダードとして、各国の刑事手続に適した弁護人立会制度が構築・導入されつつある(なお、その背景には、2008年欧州人権裁判所大法廷判決〔サルダズ判決〕及び2013年EU指令48号がある)。これに対して、わが国においては、未だ弁護人立会制度に関する先行研究は乏しく、比較法的知見も充分に提供・共有されていない状況にあった。 そこで、本研究においては、わが国の刑事手続と整合的・適合的な弁護人立会制度を構想するための準備作業として、弁護人立会制度に関する議論の蓄積があり、かつ、既に実際の運用においても弁護人の立会いが定着・確立しているイギリスを中心としつつ、その他の欧州諸国の議論状況も可能なかぎり参照し、各国における立会弁護人の役割・権限等を確認するとともに、弁護人立会権の理論的根拠に関する検討を行った。 以上の検討によって確認し得たことは、次の3点である。 (1)上記EU指令においても、具体的な弁護人制度の構想は各国に委ねられており、その制度設計は一様ではないこと(欧州諸国においても、弁護人立会権はいまだ生成過程の権利といえること)、もっとも、(2)被疑者取調べが「その後の刑事手続の帰趨を左右する重要な局面である」という認識は広く共有されており、被疑者取調べに先立ち弁護人と接見・相談し、かつ、弁護人を取調べに立ち会わせる権利が保障されなければならないという点においては、既に共通認識が形成されていること、また、(3)手続の帰趨を左右する重要な局面において、実質的な手続参加を保障するためにも、弁護人立会権が保障されなければならないこと、である。
|