本研究は、具体的事故事例分析を通じて、「自動運転車の導入により、どのような事故について刑事責任を問うことができ、どのような事故について刑事責任を問えなくなるのか。法の間隙はどの範囲で生じるのか。」を明らかにしようとする研究である。 研究期間全体を通じ、①レベル2の運転支援車の事故の法的責任、②レベル3の操作引継ぎ時の事故の法的責任、③レベル4の遠隔型自動運転システムにおける自動運行装置作動中及び遠隔操作中の事故の法的責任といった各レベルごとの検討を行った。加えて、④自動運転車の事故の刑事責任に関する答責の境目の明確化において特に問題となる「自動運転車が事故回避・円滑交通のために交通ルールに違反することが許されるか」という問題を検討するとともに、⑤実際の公道実証実験の事故事例における事故原因の解明過程の分析を通じて、証拠の収集・分析及び事実認定という実務的視点を加味した課題の抽出を行った。このように、様々なレベル・運行態様・事故態様の具体的事故事例を設定し、理論的観点からの検討とともに、証拠の収集・分析及び事実認定という実務的観点からの検討を行った。 最終年度は、総合的考察を行い、理論的観点及び実務的観点から法的課題を整理し、今後の法整備に向けた提言を行った。理論上の問題として、自動運転車の事故の過失犯判断において過小処罰と過大処罰の懸念が生じることを指摘し、今後の課題として、事故回避・円滑交通のための道路交通法違反の問題、他の交通関与者による道路交通法違反の考慮の程度の問題及び人間ドライバーの能力とシステムの性能の凸凹の問題に関わる安全水準の法令等の重要性について提言した。また、実務上の問題として、交通事故事犯が特殊過失事犯に変容し、捜査公判が専門化・複雑化・国際化することを論じ、今後の課題として、行政手続・刑事手続の連携の問題及び個人処罰・法人処罰の問題について提言した。
|