研究課題/領域番号 |
19K01356
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
京 俊介 中京大学, 法学部, 准教授 (80609222)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 厳罰化 / 重罰化 / ポピュリズム / 立法 / 刑事政策 |
研究実績の概要 |
本研究は,日本の刑事政策における厳罰化を政治学的観点から捉えるものである。先行研究においては,近年の日本で他の先進国と同様に厳罰化が生じていることを前提として,それを説明する枠組みとしての「ポピュリズム厳罰化」論が有力視されている。しかし,その前提自体は十分に実証されてはおらず,さらに説明にも問題が残されている。 そこで,本研究は,日本において厳罰化が生じているか否かを体系的に実証するとともに,仮に生じているとすればどのような形で,どのような政治的メカニズムによって生じているのかを明らかにすることを目的とする。この目的を達成するために,本研究では以下の3つの方法を用いる。(1):近年の日本の全立法を対象とした,厳罰化に焦点を当てたデータの構築。(2):(1)のデータを用いた量的分析。(3):(2)の結果を踏まえた,厳罰化の政治過程についてのモデル構築と質的分析。 (1)では,立法による厳罰化に焦点を当てたデータセットを構築する。この作業によって,立法による厳罰化が生じているのか,そして,生じているとしてそれがどのような形でかを明らかにすることができる。 (2)では,(1)のデータを用いた量的分析を行う。検証すべき仮説の1つは,先行研究が主張するように「ポピュリズム厳罰化」と呼べる立法が多いか否かである。この作業によって,立法による厳罰化がどのような政治的メカニズムによって生じているのかを,定量的な根拠をもって明らかにできる。 (3)では,(2)の分析結果を踏まえ,立法過程の詳細を分析すべき事例を抽出し,政策形成過程のモデルを構築して,その過程を追跡する質的分析を行う。立法による厳罰化がどのような政治的メカニズムによって生じているのかを,一般化可能性をもつモデル,および,全事例の中での位置付けが明確に与えられた具体的事例における質的な根拠をもって明らかにすることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は「研究実績の概要」の(1)にあたるデータセット構築と,部分的に(2)の量的分析の作業を進めた。具体的には,以下の4種類のデータをデータセットに加えた。(a)閣法(2810本)について,国会議事録に基づいて所管省庁を加えた。(b)全立法(3427本)について,国会議事録に基づいて,党派対立と当該法案の政党間対立における「重要性」を操作化した。(c)厳罰化立法(910本)について,国会議事録に基づいて,国会の趣旨説明における罰則への言及の有無を加えた。(d)閣法の厳罰化立法(822本)について,制定法律の全文,新旧対照表,および立法前後の六法等を参照して,その厳罰化の内容を「刑罰引き上げ」(懲役・禁錮の年数や罰金額の引き上げ),「処罰対象行為拡大」(刑罰の対象となる行為を新たに定義する),または「刑罰付き新規立法」(罰則規定を含む新たな法律を作る)に分類した。 以上の作業の結果更新されたデータセットに基づいて,先行研究の主張を踏まえ,主に以下の3つの問いを立てて分析を行った。(i)厳罰化立法はいつどのように生じているのか,(ii)どの省が厳罰化法案を作っているのか,(iii)厳罰化立法は党派対立を回避しているか。(i)先行研究が1990年代後半から進んだと主張しているのに対し,量的には2000年代半ばである。最も多いのは「処罰対象行為拡大」であるが,「刑罰引き上げ」もその時期に増加している。(ii)先行研究が法曹資格をもつ法務省官僚と検察官が主導したと主張しているのに対し,特定の省ではなく多くの省が厳罰化の内容を含む法案を作成したことが厳罰化立法の量的増加につながっている。(iii)ポピュリズム厳罰化論からは厳罰化法案については党派対立が少ないことが予測されるのに対し,少ないとは言えず,先行研究が着目する厳罰化立法事例の選定には一定のバイアスがある。
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今後の研究の推進方策 |
来年度については,主に「研究実績の概要」の(2)にあたる量的分析を継続して行いながら,その必要に合わせて(1)のデータセットにデータを追加する作業を継続していく予定である。その際の主な課題は以下の2点である。第1に,厳罰化立法の内容について,より質的なレベルに踏み込んだデータを追加することにより,その時系列的傾向や所管省庁別の傾向を探ることである。具体的には,厳罰化された犯罪行為が誰のどのような行為を対象とするものであるのかを,制定法律の全文および『時の法令』や『法令解説資料総覧』等に掲載されている立法担当官解説等を手がかりに把握し,分類する。第2に,本研究で厳罰化立法として把握された立法について,厳罰化が主たる改正内容に含まれているのかを,国会での趣旨説明および立法担当官解説を手がかりに把握する。 以上の課題を解決することにより,本研究が把握しようとしている厳罰化立法と,それよりも範囲が狭いと考えられる,先行研究が検討してきた厳罰化立法との間で,重なり合う部分と異なる部分が,一定の基準でもって明確に区別できるようになる。また,このデータを用いて厳罰化立法をより明確に分類することができるので,厳罰化立法の分類ごとにどのような立法のメカニズムがあるのかを検討する,「研究実績の概要」の(3)にあたる質的分析(主として再来年度)に向けて,詳細に検討すべき事例を選定するための基準を明らかにすることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,所属研究機関から海外学会での2度の研究報告にかかる助成金が235,149円支給され,実際の執行額が当初の予算計画よりも減少したことによる。次年度はオランダでの在外研究を予定しており,次年度使用額を利用して,研究動向の把握のために通常時には行けない学会等に積極的に足を運ぶつもりであったが,新型コロナの影響により在外研究への出発が延期になり,さらに学会自体も開催されるか不透明であるため,現時点では執行の目途が立てられない。
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