本研究は,日本の刑事政策における厳罰化を政治学的観点から捉えるものである。先行研究においては,近年の日本で他の先進国と同様に厳罰化が生じていることを前提として,それを説明する枠組みとしての「ポピュリズム厳罰化」論が有力視されている。しかし,その前提自体は十分に実証されてはおらず,さらに説明にも問題が残されている。 そこで,本研究は,日本において厳罰化が生じているか否かを体系的に実証するとともに,仮に生じているとすればどのような形で,どのような政治的メカニズムによって生じているのかを明らかにすることを目的とする。この目的を達成するために,本研究では以下の3つの方法を用いる。(1):近年の日本の全立法を対象とした,厳罰化に焦点を当てたデータの構築。(2):(1)のデータを用いた量的分析。(3):(2)の結果を踏まえた,厳罰化の政治過程についてのモデル構築と質的分析。また,コロナ禍にともなう予定変更により,(4):立法の厳罰化の効果,正当性およびその限界を明らかにするための文献と統計データの幅広い検討,を加えた。 今年度は,(4)の成果を踏まえて,(3)の作業を実施した。具体的には,立法担当官解説において抑止効果の観点からその厳罰化を正当化している事例を抽出し,その事例を分類した昨年度の成果を踏まえながら,その立法過程を追跡し,事例の比較分析を行った。その結果,主として以下のことが明らかになった。すなわち,抑止効果の向上を正当化理由とするが罰則強化の必要性が必ずしも明らかでない厳罰化立法の事例においては,刑事罰の引き上げについて審議会で合意が得られているものは相対的に少数であり,法案における刑事罰の引き上げ方針は官僚制によって主導されていることが多い。
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