従前研究が乏しかった無償契約について、特にその代表例である贈与契約を素材としつつ、①無償性が贈与契約の拘束力にいかなる影響を及ぼすのか、②契約内容を解釈する際、無償であることがどのように機能するのか、という2つの観点から、比較法的検討を交えつつ考究し、それを踏まえた上で、③無償契約の拘束力及び効力の背景原理を究明し、これに基づく解釈論的及び立法論的提言をすることを目的とする本研究プロジェクトにあっては、令和5年度、基礎的・発展的研究に注力し、次の成果と知見を得た。 第1は、令和4年度において得た比較法的知見、すなわち、無償契約における契約不適合責任のあり方、とりわけ損害賠償責任の要件と効果に関する世界的動向に基づき、改正法551条のもとでされる贈与契約の解釈と責任との関係について一定の立場を確立することができた。この成果は『新注釈民法12巻』において、551条の注釈として公表される予定である。 第2は、552条、553条、554条についても執筆を進めることができた。特に553条は、この規定自体は改正されていないものの、改正された他の規定との関係から見直しを要することとなった。 本研究プロジェクトの研究期間全体を通じた成果としては、何といっても、研究代表者が編集責任者を務め、そして、549条から554条までの執筆者でもある『新注釈民法12巻』の担当部分を「脱稿」したことである。他の執筆分担者との関係から、本書の刊行までは、なお若干の時間を要するが、ここまでこぎ着けることができたのは本研究プロジェクトのおかげであり、心から感謝したい。 なお、贈与契約における契約不適合責任のあり方については、研究を進めれば進めるほど、まだまだ足りない部分が明らかになっており、今後研鑽をさらに深めたい。 また「契約の拘束力」という深淵に臨む研究にもすでに着手している(後記業績1)。
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