研究課題/領域番号 |
19K01362
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
得津 晶 東北大学, 法学研究科, 教授 (30376389)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 法令遵守義務 / 取締役の責任 / 会社法 / イノベーション |
研究実績の概要 |
2020年度から帰責原理の検討に着手した。取締役が法令に違反する行為をした場合に会社に対して発生した損害を賠償する義務を負う という結論に対して大きな異論はなく、ほぼコンセンサスがあるといえる。だが、それはなぜなのか、すなわち、なぜ法令遵守義務を会社に対して負うのかという帰責原理についてはそもそも明示的に議論が展開されておらず、 見解も一致していない。 応募者は、法令違反は株主利益最大化原則の問題の外側であり、経営判断原則の適用等はなく、法は法であるというだけで守らなくてはならないものであるという法のインテグリティないし法の内的視点という構想が取締役の民事責任の場面にも及んでいるという立場を前提に、しつつも、近時、有力となっている法令遵守義務の場面でも、一定の場合には取締役に裁量を認めるべきとの立場の両立を目指した。 その帰結として、Pollman, Corporate Disobedience, 68 Duke L. J. 709 (2019)を参考に、イノベーションのために、法の改善における私人(民間セクター・企業)の役割に期待するという立場のもと、①社会の利益になること・②Openであることを中心に審査すべきという立場を提唱した。 また、従来の法制度とイノベーションとの関係を論じるものとして、暗号資産に関する事例研究やその延長にある電子マネー(前払式支払手段)に関する事例研究をおこない、一方では、従来の法制度の枠組みが先端的な事例の処理に有用であることを示しつつ、他方において、既存の法制度に形式的に従っているだけでは解決できないという問題点、すなわち民間セクターが法の改善を主導する必要性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
取締役の法令遵守義務の議論において、一方では株主利益最大化原則の埒外にあると位置づけつつ、他方において、イノベーションのために取締役に法令を遵守しない裁量を認めるという立場とを両立することを目指して、Pollman, Corporate Disobedience, 68 Duke L. J. 709 (2019)を参考に、法の改善における私人(民間セクター・企業)の役割に期待するという立場のもと、①社会の利益になること・②Openであることを中心に審査すべきという立場を打ち出し、そのたたき台となる報告を企業法研究会で報告した。今後、論文執筆に向けて動き出している状況にある。 これは、当初2020年度の研究計画としていた予定していた法令遵守義務が株主利益最大化原則の枠内にあるのか否かの問題を超えて、枠外においたとしても、取締役に法令違反行為を行う一定の裁量を基礎づけることができたものであり、当初の研究計画よりも勧めたものと言える。
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今後の研究の推進方策 |
日本企業をめぐる社会的問題の中心が従来の相次ぐ企業不祥事対応に端を発するコンプライアンスから、近時の稼ぐ力の欠如を嘆くイノベーション不足へとシフトしたことが、前年度まで検討した法令遵守義務違反の根拠としての法のインテグリティないし法の内的視点の表れというアイディアにどのような影響を与えるのかを検討する。 これらの発想は、システムとしての法(法的空間)があり、そのシステムに従うことは合理的であるという信念(フィクション)が比較不能な価値の迷路にある現代社会において統治の知恵として重要であるという 点に根拠がある。 だが、それでは、法の世界は一切動かず、法であるというだけで全て国民は盲従しなくて はならないかといえばそうではない。法には法である以上守らねばならないという内的視点のみならず、当該法が社会的に合理的であるか否かという外的視点もあり、この両視点はともに存在している。そして、近時の法の抵触と隣り合わせのイノベーションの増加は、法の外的視点、すなわち法が本当に社会にと って合理的であるか否かの検討の必要性を増加させるものである。 すなわち、 法である以上守らねばならないものであるという尊重をしたとしても、それでも合理的とはいえないと信じる場合であれば、一定の場合に逸脱の裁量を取締役に認めてよいはずであり、そのための基準として、2020年度に提唱した①社会の利益になること・②Openであることの審査という枠組みが有効・適切であるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスのため出張が不可能となったため国内旅費・海外旅費が未執行となった。これは2021年度以降使用する予定である。
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