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2021 年度 実施状況報告書

取締役の法令遵守義務の帰責原理:コンプライアンスの時代からイノベーションの時代へ

研究課題

研究課題/領域番号 19K01362
研究機関東北大学

研究代表者

得津 晶  東北大学, 法学研究科, 教授 (30376389)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード会社法 / 法令遵守義務 / 取締役の責任 / コンプライアンス / 内的視点 / イノベーション / 法と経済学
研究実績の概要

2021年度は、前年度まで検討した法令遵守義務違反の根拠としての法のインテグリティないし法の内的視点の表れというアイディアを踏まえて、日本企業をめぐる社会的問題の中心が従来の相次ぐ企業不祥事対応に端を発するコンプライアンスから、近時の稼ぐ力の欠如を嘆くイノベーション不足へとシフトしたことがどのような影響を与えるのかを検討した。
内的視点の発想からは、システムとしての法(法的空間)があり、そのシステムに従うことは合理的であるという信念(フィクション)が比較不能な価値の迷路にある現代社会において統治の知恵として重要であることが導かれた。だが、このことは、法の世界は一切動かず、法であるというだけで全て国民は盲従しなくてはならないという意味ではない。法には内的視点のみならず、当該法が社会的に合理的であるか否かという外的視点もある。そして、近時の法の抵触と隣り合わせのイノベーションの増加は、法の外的視点、すなわち法が本当に社会にとって合理的であるか否かの検討の必要性を増加させるものと位置付ける。
以上の問題意識に基づいた実作として、モニタリング・ボード化が進むことで機能縮小することが予想される株主代表訴訟が、コンプライアンスの領域ではその機能縮小がより進むであろうことを示した。同研究は、取締役の義務の実体法的側面ではなくエンフォースメントの側面に対して外的視点を基調にした分析をおこなったものである。この帰結は内的視点まで含めて考えると、株主代表訴訟のコンプライアンス促進機能の供給が過少となることが示唆される。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

まず、本研究の研究課題の本丸である帰責原理の問題の前提として、債権法改正によって提示された新たな契約責任(債務不履行責任)の要件に照らし、特別規定である取締役の対会社責任の要件(帰責構造)を再度整理した。そのうえで、取締役が法令に違反する行為をした場合に会社に対して発生した損害を賠償する義務を負うというほぼコンセンサスのある結論に対して、それはなぜなのか、すなわち、なぜ法令遵守義務を会社に対して負うのかという帰責原理の問題を検討した。その回答として、法令違反は株主利益最大化原則の問題の外側であり、経営判断原則の適用等はなく、法は法であるというだけで守らなくてはならないものであるという法のインテグリティないし法の内的視点という構想が取締役の民事責任の場面にも及んでいるとした。
他方で、AirbnbやUberなど既存の法制度の変容を要請するような新たなビジネスとその有用性を受容するような理論枠組みが取締役の法令遵守義務のルールには必要になるとした。そのため、法をより良い方向に変容することを促すために一定の場合には取締役に法令違反行為が明示的に認められることが必要であるとし、アメリカにおける議論も参照して、法令違反があっても取締役の義務違反が認められないための枠組みとして①社会の利益になること・②Openであることの2つの要素を中心に判断することを提言した研究報告を行い、現在、そのフィードバックを取り込んだ論文を作成中である。
また、コロナ禍で中断していた国際学会での報告も、2021年度中日明商法研究会での報告によって再開した。2022年度にも国際学会での報告を予定している。

今後の研究の推進方策

取締役の法令遵守義務違反の責任という文脈において、法令遵守の内的視点と外的視点の両視点を両立させた議論を試みて2020年度に研究会報告を行った「取締役の法令遵守義務――法の変革における私人の役割?」(企業法研究会。2021年1月)を、当日のフィードバックも回収して、公刊を目指す。
また、国際学会での報告を行う。

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍で一切出張ができなかったため。

  • 研究成果

    (17件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (13件) (うちオープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] 日本の自己株式取得規制の緩和の表側と裏側2022

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      東北ローレビュー

      巻: 10 ページ: 2-19

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] ベトナムの大学生のための日本の会社法入門2022

    • 著者名/発表者名
      得津晶=ヴ・ティ・リン・チ
    • 雑誌名

      東北ローレビュー

      巻: 10 ページ: 65-79

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 匿名組合契約――出資契約の一般法化2022

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      中日民商法研究会(2022年)日本語論文集

      巻: 1 ページ: 131-141

  • [雑誌論文] 旧帝大教授の本分2022

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      五十嵐桂樹編集・外尾健一先生追悼集・外尾健一さんを偲んで (みやぎ生活協同組合・宮城県生活協同組合連合会)

      巻: 1 ページ: 64-66

  • [雑誌論文] モニタリングボードと株主代表訴訟制度の将来2021

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      民商法雑誌

      巻: 157 ページ: 953-973

  • [雑誌論文] 企画趣旨2021

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      法律時報

      巻: 1167 ページ: 7-9

  • [雑誌論文] 株式譲渡契約における前提条件とその充足の有無(東京地判令和2・3・19金融法務事情2157号68頁)2021

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      ジュリスト

      巻: 1565 ページ: 115-118

  • [雑誌論文] 株式併合後に株式買取請求権を行使している旧株主による株主名簿閲覧謄写請求(最判令和3・7・5裁時1771号5頁)2021

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      法学教室

      巻: 494 ページ: 137-137

  • [雑誌論文] 公開買付を前置しないキャッシュアウトのための二回目の株式併合(東京地判令和3・1・13金判1614号36頁〔判例セレクト〕)2021

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      法学教室

      巻: 491 ページ: 155-155

  • [雑誌論文] 有価証券届出書の財務情報虚偽記載における引受証券会社の責任(最判令和2年12月22日〔判例セレクト〕)2021

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      法学教室

      巻: 487 ページ: 155-155

  • [雑誌論文] 議決権阻止工作と利益供与(最判平成18年4月10日民集60巻4号1273頁)2021

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 雑誌名

      神作裕之・藤田友敬・加藤貴仁編・会社法判例百選〔第4版〕

      巻: 1 ページ: 28-29

  • [雑誌論文] 法の移植か法の革新か?:米国JOBS法第3編にならった台湾のエクイティ・クラウドファンディング規制(下)2021

    • 著者名/発表者名
      蔡昌憲(訳:得津晶)
    • 雑誌名

      法学

      巻: 85 ページ: 159―183

  • [雑誌論文] 法の移植か法の革新か?:米国JOBS法第3編にならった台湾のエクイティ・クラウドファンディング規制(中)2021

    • 著者名/発表者名
      蔡昌憲(訳:得津晶)
    • 雑誌名

      法学

      巻: 85 ページ: 59-76

  • [学会発表] 匿名組合契約――出資契約の一般法化2022

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 学会等名
      中日民商法研究会第19届(2022年)大会
    • 国際学会
  • [学会発表] 総論:形式的意義の商法と商法の適用範囲2022

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 学会等名
      商法総則・商行為法研究会
  • [学会発表] 権利付きトークンの法的地位:デジタル資産の捉え方2021

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 学会等名
      日本銀行金融研究所
  • [学会発表] 中年商法学者の悩み2021

    • 著者名/発表者名
      得津晶
    • 学会等名
      東京大学社会科学研究所全所的プロジェクト「社会科学のメソドロジー~事象や価値をどのように測るか~」・「法学の方法」研究会

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公開日: 2022-12-28  

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