研究課題/領域番号 |
19K01364
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
金子 宏直 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 准教授 (00293077)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 訴訟費用 / 提訴手数料 / 空き家問題 / ニューサンス |
研究実績の概要 |
民亊裁判の類型に応じた訴訟費用の問題として、主に現代型訴訟の一類型である空き家問題に関連する紛争についてのコストを取り上げ、掲載的な側面と法的な側面についての問題の検討を行った。空き家問題、未相続土地建物の問題は、急速な高齢化社会と関連をもち日本では全国的な問題になっている。近時、関連する対応として民法及び不動産登記法の改正案が採択された。これらの対策により不動産の適正管理が促され紛争の予防的な機能が期待される。しかし、空き家問題は、ニューサンスの一つとして位置づけられるものの、民事裁判による解決の方法は確立されていない。そこで、空き家対策防止法の制定に合わせた地方自治体の行政的な対応の経済的側面を明らかにすることで紛争化した場合のコストを想定できる。東京23区において定められている基本対策計画および統計を参考に、空き家問題の経済的コストの推計を試みた。東京23区を含む首都圏は全世界的に見ても最も人口集中の高い地域であり、空き家問題の地域に与える影響は大きい。空き家問題は各国においても存在するが、各国法、不動産市場の違いから社会への影響は同様ではない。統計から日本全体での空き家問題の経済的状況を推計することにより、近隣土地所有者によるニューサンス防止のための物権的請求権に基づく民事裁判による解決は、紛争の被害者に大きな負担になることについて考察を行った。 これらの考察により、「訴えをもってする利益」を基準にした民事裁判手数料について、実務による規準の合理性について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は空き家問題という現代的な紛争類型を中心にした。研究題目である紛争類型に対応した訴訟コストの問題を経済的な側面と法的な側面の両面から考察することができることが確認できた。空き家問題は、直接的には土地建物所有権に係る紛争類型であるが、占有権、不法行為、家族法(成年後見、財産管理、相続)の民事紛争に広くかかわるとともに、民事と行政手続に係るという公共訴訟の性質を有していることが分かる。経済的な側面としては、司法統計以外の統計資料から実証的に考察することができる問題があることが確認できた。法的な側面としては、日本法の母法であるドイツにおける訴訟費用算定実務での関連する議論を考察することができた。 「訴えをもってする利益」の裁判所の実務上の算定基準を統計等の資料をもとに経済的状況に応じて見直す方法や可能性について一例を示すことができた。 また、国際学会では、米国でも空き家関連の統計がセンサスにより公開されているものに加えて、州単位でのデータを補足することで、東京都市部での問題との比較検討が可能になるとの示唆を受けた。さらに、国際学会での経済学者等との議論において、空き家問題等の新しい問題が少なからず諸外国でも問題になりつつあることを情報共有でき、比較法的な研究の必要性を確認することができた。各国で、土地所有権制度、社会の高齢化の進展程度、私権への介入方法(エクイティ等)の根拠などが異なる中で、共通する問題への対応を検討する必要があることが確認できた点で意義が見い出せと考える。
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今後の研究の推進方策 |
紛争類型に応じた紛争解決コストの考察対象として、空き家問題から広い意味で関連のある、私権制限に係る紛争類型、家族法に係る紛争類型を取り上げ、本年度の研究手法の応ができるのか考察を行う予定である。私権制限と空き家問題に係る法的対応として、相続登記の義務化、遺産分割協議がない場合の法定相続、財産管理人による空き家土地の処分手続が立法的になされた。これらの手続整備後にどのような紛争解決コストが生じ得るのか考察することで、紛争予防的な法的制度整備による利益費用分析を行う対象になると考えられる。また、家族法は民事紛争でありながら、身分法という公共的な性質を有しており、同時に財産権の紛争と密接にかかわっている、紛争類型とコストを考える上で重要なものである。家族関係紛争類型として、親子関係に係る訴訟(出自を知る権利、子の引渡に関する紛争)についても紛争類型に応じた訴訟費用(紛争解決コスト)の分析に、本年度までの考察手法が応用できるのか検討を加える予定である。あわせて「訴えをもってする利益」の合理性を利益を例外である算定不能とする場合を考察することにより検討を加える予定である。 その際、これまで研究費補助金により入手した家族関係手続に係るドイツ法の資料等も整理して、日本法との比較考察も行っていく予定である。 最終年度として、紛争類型に対応した訴訟費用(紛争解決コスト)の考察方法をまとめるとともに、まだ取り扱っていない紛争類型に関して考察を拡げていく方向性についても検討を加えていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス感染対策のため海外出張を中止し、出張経費に予定した費用とあわせて書籍資料等の物品費の購入のために使用したため差額が生じた。今年度も外国資料ならびに日本語資料ものの購入を中心に使用を予定している。とくに、本年度の研究計画で予定している家族法関係の書籍や資料の購入に使用を予定している。
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