最終年度にあたり、改正後の民法及び家事事件手続法、不動産登記法等のもとでの相続法制を実体法及び手続法の観点から総合的に検討し、取り纏めの研究を行った。平成30年の民法(相続関係)改正法(平成30年法律第72号)は、すでに平成31年1月13日から令和2年4月1日までに段階的に施行されている。また、令和3年の民法等一部改正法(令和3年法律第24号)と相続土地国庫帰属法(令和3年法律第25号)も、令和5年4月1日から令和6年4月1日(一部は令和8年2月2日、4月1日)にかけて施行されており、相続法制に関する近年の一連の改正が実際に機能する段階に至っている。本研究では、これらの改正法の法的意義と実効性の分析を通じて、「人」と「財産」を基軸とした財産の承継と管理の制度としての相続法制の法理の解明を進めた。そこでは、高齢の生存配偶者の保護や親族による被相続人への寄与の法的評価、遺産の管理と処分を含む法定相続人の相続権における選択肢の多様化という各施策の具体的かつ社会的意義を確認するとともに、その根底において、私人から私人への死者の財産承継という近代法の相続法制の基本概念の維持と継続を見て取ることができた。 さらに、本研究ではドイツ法及びアメリカ法を対象として、近代相続法概念の変遷について考察した。同じく連邦制国家でありながら家族法・相続法の立法のあり方を異にするドイツとアメリカは好個の検討対象であるが、両国がそれぞれの社会状況や歴史的、文化的背景のもとで求められる変化に対応しつつ、私有財産制の根幹としての相続制度のあり方を模索する様を看取することができた。これらの分析は、我が国の相続法が今後も社会の変化に対応しつつ、法制度として何をその基盤として維持することが必要かを見定める上での貴重な視点を与えるものと言うことができる。
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