最終年度は、3回の定例研究会を実施したほか、佐賀県社会福祉士会、新潟県社会福祉協議会、愛知県弁護士会、知多地域権利擁護支援センターを対象として、法定後見制度の利用者による就労状態(会社役員等としての就業のほか、自営業者としての就業を含む)の実情と、その支援に関する課題点についてのヒアリング調査を実施した。また、本研究事業の総括としての位置づけで、「会社役員等の欠格条項をめぐる解釈論上の課題と成年後見法改正の議論が与える影響」をテーマとして、Zoomによるオンライン会議の方法で公開研究会を行った。加えて、ソウル大学において韓国の民法研究者3名等との合同研究会を行った。 本研究の主眼は、令和元年の会社法改正によって取締役等の会社役員に関する欠格条項が削除されたことで具現化した「会社法制と成年後見法制の交錯から生じる理論的・実務的課題」を体系的かつ網羅的に明らかにしたうえで、両法制の理念に整合的な規範体系を主として解釈論の視点から再構築することによって、先の課題を解決するための効果的な処方箋を提示することにある。こうした本研究の中核的な成果の公表として、上山泰=内田千秋「会社法と成年後見法の交錯問題 ―取締役の欠格条項削除に関する争点を中心に」と題する論文を研究代表者及び分担者の所属機関の紀要である法政理論において3回連載した。本論文については、残る未完部分と補論を補った上で、代表者と分担者の関連論文を併せて収録した書籍(上山泰=内田千秋『会社法と成年後見法の交錯―欠格条項削除後の課題(仮)』)として、令和6年度中に出版する予定で準備を進めている。なお、本研究では、この中核論文3編を含めて、研究期間全体を通じて、論文21編、図書(共著書)5冊の交換に加え、国際会議での報告1回という多数の成果を上げることができた。
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