研究課題/領域番号 |
19K01369
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齊藤 真紀 京都大学, 法学研究科, 教授 (60324597)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | コーポレート・ガバナンス / 商法総則 / 企業の社会的責任 |
研究実績の概要 |
本年度までに、我が国の商法・会社法における会社の利害関係者の利害調整メカニズムにおいて、解釈学が果たしてきた役割につき、関連領域の裁判例の分析を通じて調査を進めた。我が国の商法・会社法は、会社分割法制を除き、債権者ないし「相手方」の特性を区別していない。しかし、消費者的地位にある者が会社の事業に関連して被害を受けたときには、最高裁判所は、類推適用という形で、条文起草時には予定されていなかった保護を被害者に与える傾向があり、その際に、被害者の特性にかかる言及が十分になされないまま、一般的な表現を用いて適用範囲の拡大を図ることが多い。その結果、後続の下級審裁判で、上記のような特性を有しない債権者も過剰に保護されることになる。このような状況は、解釈学において、各規範の保護法益にかかる議論の停滞している商法総則の領域において顕著に認められる。そこで、当該領域において、現時点での解釈学の到達点を明らかにするとともに、今後の解釈における指針を示すことを試みた。取締役の対第三者責任については、従来の裁判例において、取締役の行為が、不法行為責任の要件を満たさない場合であっても、なぜ会社法上、第三者との間で違法とされるのかにつき、十分に検討されないまま、責任が認められる傾向にあったところ、近時は、コーポレート・ガバナンスや対会社責任にかかる議論の進展を受けて、より分析的に検討される傾向が認められる。一方で、任務懈怠に各種の法令違反が含まれうるところ、各取締法規の趣旨が吟味されなければ、取締役の責任が過剰に肯定される結果を招くという課題がある。いずれの領域においても、我が国の会社法学は、会社の事業運営から影響を被った第三者の保護を責任法制の中で検討する傾向があり、責任法制に過度に依存しない利害調整メカニズムを構築する必要が認められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍による行動制限等で、調査に支障を来した面もあったが、徐々に体制も立て直してきている。
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今後の研究の推進方策 |
関連領域における我が国の裁判例の分析を引き続き進めつつ、これまでの調査結果を受けて、責任法制以外の利害調整メカニズムにかかる調査を進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により出張や招聘等が中止になったことによる影響である。文献研究に切り替えられる部分は切り替え、文献等の購入費に補充する予定である。
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