研究課題/領域番号 |
19K01376
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
片山 直也 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (00202010)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 包括担保 / 包括財産 / 資産 / 担保価値維持義務 / 充当 / フランス法 / ベルギー法 / ケベック法 |
研究実績の概要 |
本研究では、包括担保制度につき、比較法制研究として、わが国の担保法の母法であるフランス法における担保法改正を起点として、ケベック法やベルギー法において、同じフランス法圏でありながら、Common Lawや統一法(UNCITRALモデル法など)の影響を受けて、担保法制がどのように変容したかを動態的に分析する。特に、ケベック法は1991年からCommon Lawの影響を受けて抵当権(hypothèque)一元構成の下、ベルギー法は2013年にUNCITRALモデル法を参照に質権(gage)一元構成で、いずれも包括担保法制の立法化が進められているにもかかわらず、わが国においてはほとんど紹介されていないところである。 片山は、これまで、2006年のフランス担保法改正およびそれ以降の動向について、国内外の研究者とともに共同で研究を進め、その成果を公表してきたが、同時に、一方では、「財(bien)」や「資産(patrimoine)」などの担保制度の周辺領域について共同研究プロジェクトを推進するとともに、他方では、ここ数年は、フランスにとどまらず、ベルギーおよびケベックの研究者との交流を開始し、具体的には、ラヴァル大学、マギル大学、ブリュッセル自由大学において講演やシンポジウムでの報告を行い、本研究に必要な研究拠点(ブリュッセル自由大学、ラヴァル大学、マギル大学など)の確立に努めてきた。 本研究では、一方では、総論的なテーマとして、フランス・ベルギー・ケベックにおける動産担保法制の動向を比較し、わが国の立法作業に指針を提示するとともに、他方では、各論的な3つのテーマ(包括財産論、担保価値維持義務論、充当論)について掘り下げた研究を行い、包括担保法制の基礎理論の確立を目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、秋に研究拠点の一つであるマギル大学(ケベック州モントリオール市)のポール=アンドレ・クレポー私法比較法研究所に招聘研究員として滞在し、ケベック法の包括担保法制度の研究を進めた。この間、ラバル大学(ケベック州ケベック・シティ市)の担保法の専門家であるオロール・ベナディバ教授、アンシトラルのメンバーであるミシェル・デション弁護士に対して動産担保法改正についてインタビューを実施している。さらに、2019年12月6日には、クレポー研究所主催で、片山による「担保価値維持義務」に関する講演会を実施し、大学研究者、法曹実務家との意見交換を行った。 他方、フランス担保法の第一人者であるジャン=ジャック・アンソー教授を招聘し、フランスにおける2017年担保法改正準備草案に関する講演会を実施し(2019年11月1日)、現在、その翻訳の公刊に向けて準備を進めている。 本年度は、まずは総論的な課題に関しては、一応の方向性が見出せたと自負している。具体的には、近時の動産担保法制の動向としては、①事業という枠での固定資産・流動資産の担保については非占有担保(質権など)および公示(登録)制度を整備する方向性と、②金銭債権・金融担保については、金銭債権や有価証券の支配を排他的に帰属させる担保の法制化の方向性の2つがあり、①は各国共通であるが、②については、UCCやアンシトラルに影響を受けたベルギー・ケベックの占有担保方式と、それを回避しようとするフランスの所有権担保方式との差違が現れている。この点に関しては、本研究の中間報告として、「動産・債権担保法制における二元的構成の新たな動向―フランス法を起点としたベルギー法・ケベック法の比較研究の試み―」と題する論稿にまとめて公刊の準備を進めている。 各論的課題に関しては、担保価値維持義務について、研究を進め、本年度中に論文と翻訳を公刊するに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、総論研究としては、まずは、中間報告である「動産・債権担保法制における二元的構成の新たな動向―フランス法を起点としたベルギー法・ケベック法の比較研究の試み―」の公刊を進めたい。その成果を踏まえて、2020年12月12日および13日に、慶應義塾大学において、フランス、ベルギー、ケベックから担保法の第一人者を招聘して、「動産担保法改革はいかにあるべきか?―一元的システムか二元的システムか―」というテーマで国際シンポジウムを開催する予定である(新型コロナウイルスの影響で開催が難しい場合には、翌年度に延期する)。 また、昨年度のケベックに続いて、本年度は、研究拠点であるパリ第2大学、ブリュッセル自由大学等で、現地調査および講演会を実施し、両国における研究を深化させる予定である(新型コロナウイルスの影響で開催が難しい場合には、オンラインでの交流も検討したい)。 次いで、各論研究としては、昨年度の担保価値維持義務に続き、「充当(affectation)」概念の研究を深化させる予定である。動産担保の中でも、近時は、金銭債権や有価証券の支配を排他的に帰属させる方向での法制化が進んでいるが、その傾向は、社会学的には担保の金融化現象であり、理論的には担保の本質として、「充当(affectation)」から「帰属(appropriation)」へのパラダイム転換として分析することが可能であると考えているが、その仮説を様々な方法で検証することになろう。この点は、ベルギー、ケベックでは、英米法の「支配(コントロール、メトリーズ)」概念の導入であり、フランスでは、「排他的担保」としての「所有権担保」の定着化という形で実定法化されているが、本質は同じであることを見極めたいと考えている。そのような方向での論稿を公表しているフランス、ベルギー、ケベックの研究者と対話を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、ケベックの研究拠点での在外研究を行ったが、予定されていたフランスへの渡航が中止となったため、次年度使用とすることとした。本年度は、新型コロナウイルスへの対応から変更のリスクはあるが、次年度使用とした経費は、12月に慶應義塾大学で予定している国際シンポや、フランス・ベルギーへの渡航に使用する計画である。
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