研究課題/領域番号 |
19K01378
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
野澤 正充 立教大学, 法学部, 教授 (80237841)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 債権法改正 / 危険負担 / 契約不適合責任 / 瑕疵担保責任 / 特定物のドグマ / 危険の移転 / ウィーン売買条約 / 所有者責任主義 |
研究実績の概要 |
2022年度は、本研究テーマのうちの2つのローマ法の原則(①所有者責任主義〔=物の滅失は所有者の責任に帰する〕、および、②何人も不能な債務に拘束されない)に関連して、債権法改正によって削除された危険負担制度と、同改正によって新たに採用された契約不適合責任との関係を研究した。すなわち、平成29年(2017)の債権法改正によって、瑕疵担保責任(民旧570条)が契約不適合責任(民562条以下)へと移行し、債務不履行責任に一元化された。それに伴い、危険負担の債権者主義(民旧534条)が削除され、新たに契約不適合責任の規定の中に、目的物の引渡しを基準時とする「目的物の滅失等についての危険の移転」の規定(民567条)が創設された。このような改正前民法から改正法への移行をどのように説明するかが、契約法理論の変容を考える上では、重要な課題となる。そして、この課題につき、本研究は、次のように単純かつ明快な解答を提供した。すなわち、改正法は、「所有権者が物の危険を負担する」(res perit domino)との①所有者責任主義を放棄し、かつ、②の原則をも否定し、民法旧534条を削除した。そして、目的物を事実上支配し、危険を防ぐことができた者がその危険を負担するとの考えに基づき、目的物の引渡しによって危険が移転するものとしたのが新しい民法の考え方である。その背景には、ウィーン売買条約などのグローバル・スタンダードが存在するとともに、危険負担の債権者主義(民旧534条)についても、かねてより、(観念的な)所有権の移転ではなく引渡時移転主義を採るべきである、との主張が通説的見解であったことを指摘することができる。そして、本研究は、この点を明確に指摘する唯一のものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により、海外渡航が事実上制限され、フランスでの文献調査およびヒアリング調査ができなかった。もっとも、ヒアリング調査に関しては、オンラインでのコンタクトが可能であり、また、メールでの質疑応答も可能である。このうち、私は、後者のメールでの情報交換を行った。というのも、オンラインでは、フランスとの間に7時間ないし8時間の時差があり、調整が事実上は困難だからである。また、2019年7月には、私が最も信頼していた研究協力者であったピエール・クロック教授(パリ第2大学)が、病気のため急逝された(享年59歳)。さらに、2021年には、私をパリ第2大学に受け入れてくれたクリスティアン・ラルメ名誉教授が亡くなった(享年83歳)。その意味では、主要な研究協力者を相次いで失ったことも、コロナ禍と相まって、フランスとの連絡を疎遠なものとしている。 しかし、以上のような問題はあるものの、研究そのものは確実に進捗していて、立教法学に15年間にわたって連載している「瑕疵担保責任の比較的考察」は、最終章の第10回目の連載を残すのみとなっている。この論文では、まさに本研究のテーマである、ローマ法以来の法原則である所有者責任主義と「何人も不能な債務に拘束されない」との原則が考察されている。したがって、コロナ禍等の不測の事態はあるものの、本研究は、若干の遅れはあるが、確実に進捗していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題については、コロナ禍のため期間延長をしている。しかし、現在のコロナ禍の状況に鑑みると、今年度もフランスへの調査のための渡航は、事実上困難であると考えられる。そこで、最終年度となる今年度(2023年)においては、まず、本研究課題のまとめとしての論文(「瑕疵担保責任の比較法的考察」)を完成させることとする。この論文は、2007年に立教法学に連載を開始したものであり、現在は第9回の連載を終えたところである(本研究課題においては、第7回・第8回・第9回の連載をまとめている)。そして、この足かけ15年にわたる研究も、今年はその最終章である第10回目の連載を完成させる予定である。そのうえで、本研究課題である、債権法改正に伴う契約法のグローバル化と契約法理論の変容に関しては、その研究の全体を、上記の「瑕疵担保責任の比較法的考察」を含む論文集として刊行する予定である(約600頁)。この論文集においては、債権法改正前に採用されていたローマ法の原則が同改正によって否定され、民法理論が変容するとともに、債権改正によって新たに導入された法制度(債務引受や契約上の地位の移転)による民法理論の変容が明らかになると考える。その意味では、この論文集(『契約法の新たな展開』2022年11月刊行予定)は、本研究課題のまとめ(成果)にふさわしい出版物となると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によりフランスでの文献調査およびヒアリング調査が事実上できなかった。そのため、研究の進捗が遅れたため、研究期間を延長した。今年度は、可能であれば、フランスでの調査を実施したいと考えている。しかし、なおコロナ禍により事実上困難である場合には、日本でできる文献調査を行い、かつ、フランスの研究者とのメールによる情報交換によって研究を進捗させ、本研究課題のまとめを行う予定である。
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