研究課題/領域番号 |
19K01381
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田山 輝明 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 名誉教授 (30063762)
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研究分担者 |
志村 武 関東学院大学, 法学部, 教授 (80257188)
黒田 美亜紀 明治学院大学, 法学部, 教授 (60350419)
藤巻 梓 国士舘大学, 法学部, 教授 (70453983)
山城 一真 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (00453986)
青木 仁美 桐蔭横浜大学, 法学部, 専任講師 (80612291)
橋本 有生 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (90633470)
足立 祐一 帝京大学, 法学部, 助教 (80734714)
梶谷 康久 朝日大学, 法学部, 講師 (80804640)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 司法オンブズマン制度 / 権利擁護の裁判所外機関 / ドイツの世話法 / 必要性の原則 / 健康配慮事務についての配偶者の相互代理権制度 / 親族代理権制度 / 世話組織法 / 国連障害者権利条約第12条 |
研究実績の概要 |
オーストリアの司法オンブズマン制度と同国における権利擁護の裁判所外機関について、インスブルック大学のガナー教授に書面による講演を依頼し、書面による質問をし、これに対する回答を得た。成年後見制度は司法と社会福祉の分野にまたがるものであるが、日本では司法的枠組みが強固であるように思われるので、社会福祉分野の機関との共働が重視されている国のシステムを紹介していただき、議論した。 さらに、ドイツで世話法の改正案が議会に上程されたとの情報に基づき、同法案を翻訳し、ガナー教授から注釈をいただき、議論を介していたところ、同法案は、今年3月に可決・成立した。ドイツの世話法では、世話(成年後見)制度の利用について、必要性の原則が明確にされており、かつ世話制度が利用される場合でも原則として本人の行為能力は制限されない。それを前提としたうえで、必要な場合には、一定の行為について、被世話人は世話人の同意を得なければならないとしている。この点についても、被世話人の希望が尊重されることが明確にされた。又、健康配慮事務については、配偶者の相互代理権制度が創設された。さらに、判断能力が不十分になった高齢者等のために、本人のリビングウイル、担当医の賛成及び世話人の賛成があれば、手術等が可能であるという制度を前提にして、生命の危機を伴うような場合については裁判所の許可が必要であるとしている。 組織面では、世話組織法が改正され、世話官庁の位置づけ等が改善され、世話官庁法が廃止された。世話協会と世話官庁の連携も強化された。以上の改正は、国連の障害者権利条約第12条の言う「支援原則」の定着であると評されている。 日本の成年後見制度も類似の課題を抱えているので、特に、オーストリアの親族代理権制度やドイツの配偶者の相互代理権制度等について、両国の制度及び関連法の改正は大いに参考になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在研究成果の一部が発表できているのは、オーストリア法とドイツ法が中心であり、前者については、インスブルック大学のM.ガナー教授の協力が得られ、後者については、ゲッチンゲン大学のV.リップ教授の協力(現時点では、主として情報提供)が得られている。さらに、フランスとアメリカについても、制度の発展について、検討を依頼済であり、共同研究者がすでに着手しており、今年中には成果の発表が期待される。具体的には、フランスについては、同国の成年後見制度の動向を知ることのできるフランス人専門家の論文の紹介か、研究分担者[山城一真]による研究論文の発表になると思われる。アメリカについては、研究分担者[志村武]が「アメリカにおける思決定支援をめぐる問題」を取り上げ、研究会での報告がなされると思われる。 「研究成果の取りまとめ」との関連で重要になるのは、裁判所による成年後見制度の運用を社会福祉制度が支えるのか、両者が対等に連携して制度が運用されるのか、という問題であるが、これを考えるにあたって、欧米諸国の経験と発展方向が参考になる。日本においても、今後においては、後者の観点を重視すべきであると考えるので、その方向で研究を進めてゆきたい。
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今後の研究の推進方策 |
オーストリア法に存在して、日本法に存在しない制度、例えば、クリアリング制度や親族代理権制度等についてさらに深く検討する。特に、前者については、成年後見制度の利用について、日本においても必要性の原則を明確にするかについて検討し、後者については、「事実上の親族代理」の問題をいかなる観点から法制度化するかについて、問題としたい。日本では、配偶者の法定後見の制度が廃止された経緯があるが、まったく違った観点からの法定親族後見制度を検討してみる必要がある。 また、日本では現在、金融機関が認知症の高齢者等に成年後見人がついていなくても、親族などに対して一定の「柔軟な対応」をしてくれるようになっているが、法的観点からの提言が待たれていると思われるからである。高齢者の死亡直後の「葬式費用の調達」についても同様の問題がある。 ドイツ法については、2023年に施行される新世話法について理解を深め、日本法の改革にとって有益なものを明らかにする。特に、医療代諾権は、喫緊の課題である。医療については、本人同意が原則であるが、同意能力が十分でない者に対する医療行為をいかにして実現するか、について具体的に検討したい。 障害者権利条約との関係、特に第12条との調整も、重大な課題である。現行法のままでは、国連の委員会から改正要求が出されることは避けられないと思われるので、日本の社会にあったシステムを、専門家を交えて検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの感染拡大の影響により、海外からの研究者の招聘ができなかったこと、資料収集に遅れが生じたことなどから次年度使用額が生じた。 従来の旅費相当分については、海外の研究者からのメールなどによる発言を予定している(原稿謝金等などの支出)。具体的には、オーストリアのほか、ドイツ、フランス、アメリカ等である。また、今年度収集する資料のための費用に充てる。
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