研究課題/領域番号 |
19K01389
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
小野寺 倫子 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (10601320)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境保護 / 契約 / 合意的手法 / フランス法 |
研究実績の概要 |
我が国をはじめとする先進諸国においては、行政部門の財政的・人的リソースの不足、環境リスクの不確実性などを背景として、従来環境保護の分野で一般的に用いられてきた法令による環境規制と、規制の不遵守に対する制裁という公法上の環境保護法制だけでは、目下の環境問題への対処に限界があることが認識されるようになってきている。 規制―制裁型の環境保護法制を補完する仕組みとして、近時注目されているのが、合意的=契約的手法を用いた環境保護の法的保護である。我が国においても、公害、都市環境など特定の個人に直接的な影響を及ぼすような環境問題領域においては、協定などすでに合意的手法の活用がみられる。しかし、個人への影響が直接的ではない環境それ自体の保護の分野での合意的手法の活用はそれほど一般的ではない。我が国にも、すでに環境それ自体の保護に関する国内法がいくつか存在してはいるが、十分にそのメリットを発揮しているとはいいがたく、また学術上も、特に法学分野では研究がほとんど行われていない状況にある。 本研究は、上記の諸点にかんがみ、立法および学術研究の両面において、合意的手法による環境の法的保護への関心が高まっているフランス法を対象とする比較法的研究を行うことにより、今後日本における合意的手法による環境の法的保護の推進を図ることを目的とするものである。 2019(平成31・令和元)年度の研究においては、フランスで2016年に新たな立法により創設された、特定の不動産不動産上でおこなう環境保全について不動産所有者と公共団体、環境保護団体などの間で契約を締結する環境従物債務制度の検討を中心としつつ、比較対象として、共通性を持つ日本法の諸制度についても、実際の活用状況を含めて研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019(平成31・令和元)年度の研究では、フランスにおける環境の法的保護について、特に近時フランスにおいて学説の関心が高く寄せられ、文献の公刊も盛んであるということにかんがみ、自然及び景観の回復に関する2016年8月8日の法律によって創設された、環境従物債務制度を中心に、文献調査を中心にフランスの議論の現状の確認を行った。 さらに、日本における環境保護分野での合意的手法に関する先行研究の調査を行った。この分野では、民事法よりも行政法分野で研究が先行していることから、調査対象は民事法に限定せず、公法も含めて日本における環境の法的保護と合意的手法に関する先行研究を検討した。その過程で、自然公園法上の風景地保護協定制度、都市緑地法上の市民緑地契約等フランスの環境従物債務制度と一定の共通性のある日本法の既存の制度に着目し、所轄官庁の統計的資料等の分析などにより制度の実際的な側面も含めて検討を進めた。 年度後半には、目下の感染症の世界的流行により現地での情報収集が行えないなど研究上の制約が発生したものの、フランスの研究者と電子メール等も活用してコンタクトをとり、今後の研究連携に向けた調整を試みるなど代替的手段により対応した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度においてフランスの研究者との連携に向けた交渉を進めてきたものの、目下の感染症の世界的流行の影響から、海外の研究者との対面での学術交流や海外での文献調査については実施の見通しが立たたないため、2020年度においては、当面の間、文献研究を中心に研究を進めるものとする。 202年度当初の現状では、フランスでの海外調査の見通しが立たないことに加え、フランスからの文献の取り寄せなどにも遅れが出ているが、2019度の研究においてすでに相当程度研究上必要な資料・文献の収集を進めていること、この研究に関しては、フランス政府や環境保護団体等のウェブサイトなどを活用してオンラインでも一定の情報を収集できると見込まれること、日本、フランス両国の経済活動が徐々に平常に戻りつつありフランスからの文献の取り寄せも等からず再開されるのではないかと予想されることなどにかんがみると、当面の研究に決定的な支障のないものと考えられる。 今後感染症対策が進みフランスでの現地調査等が可能となるまでの間、収集した文献の検討だけでは不足する研究情報については、フランスの研究者との電子メールでのやり取りを活用することで一定程度補完できるものと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度内の出版情報があり、購入予定であった一部図書(洋書)について、公刊の遅れ、年度末直前になっての出版中止、納品の遅延などが数件あり、年度内に購入できなかったため。当該未使用額については、翌年度に図書の購入費用として使用する。
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