研究課題/領域番号 |
19K01391
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
田中 宏治 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (60294005)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 代償請求権 / 民法422条の2 / 履行不能 / 民法412条の2 / ドイツ新債務法 / 売買 / 代償財産 / 相続財産 |
研究実績の概要 |
本研究は,代償請求権規定とその要件たる履行不能規定とをセットで有する唯一の外国としてのドイツを比較対象国と定め,代償請求権につき,権利論的分析に加える一方,その発生原因としての行為論的分析も合わせて進行させている。 研究初年度(2019年度)には,私法学会個別報告「代償請求権と履行不能」を実施し,2年目(2020年度)には,権利論的分析として,論文「ドイツ相続法における代償財産」を公表した。3年目(2021年度)には,北海道大学(民事法研究会・民法理論研究会共催)シンポジウム「ドイツ売買論の現在」を開催して頂き口頭報告および刊行(北大法学論集)をさせて頂く一方,私法学会第個別報告「ドイツ売買論の現在――判例・学説・立法の三位一体――」を実施し,さらに,「代償財産」に関する研究を発展させ,「ドイツ民法におけるデジタル遺産――フェイスブック事件――」(磯村保古稀)を公表した。 これらを受けて,当該年度,すなわち4年目(2022年度)には,次の3点において研究計画を具体的に実現することができた。 第1に,権利論的分析として,上記「ドイツ民法におけるデジタル遺産」の補論,「デジタル遺産に関するドイツ・フェイスブック事件再論」沖野眞已ほか編『これからの民法・消費者法(Ⅰ)』河上古稀(信山社)787頁~804頁を公表した。 第2に,行為論的分析として,相続法の「遺言の自由」に関し,最新の立法判例に関する,「ドイツ民法における『遺言の自由』――判例と世話組織法(BtOG)――」原田剛・田中宏治ほか編『民法の展開と構成』小賀野古稀(成文堂)229頁~244頁を公表した。 第3に,2022年8月にドイツに滞在し,共同研究者のディーター・ライポルト教授とともにドイツ相続法体系書の翻訳作業を進め,『ドイツ相続法(仮題)』として本研究最終年度(2023年度)中に刊行する目処を立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下のプラスとマイナスの要素を勘案すると,全体としては概ね順調と判断することができる。 プラスの要素として,第1に,海外(ドイツ)との学術交流について,新型コロナウイルス感染症のため,渡航の上での対面の交流が困難になったことを契機に,オンライン技術を活用し,対面によらない交流をすることができるようになったことを挙げることができる。これは,本課題の範囲にとどまらず,将来の研究を左右する,非常に大きな収穫であった。 第2に,「代償請求権」および「代償財産」研究を契機とし,相続法研究を深めることができたことが次の収穫である。「代償請求権」という法制度,その法思想が相続法の領域にも関連し展開することを確認することができたことは,本課題が順調に進展していることの証しである。方向性としては,「代償財産」から遺産分割,さらには相続法全般に対象を拡大してきていて,本研究最終年度(2023年度)には,集大成としてドイツ相続法の体系書の翻訳を刊行することができる見込みである。 他方,マイナスの要素としては,やはり新型コロナウイルス感染症のため,海外渡航が困難であった期間が3年間も継続した点である。具体的には,この間に5回も,具体的に計画したドイツでの在外研究を,いずれも直前に中止せざるを得なかったことは,準備に費やした時間や費用を相当に無駄にし,残念なことであった。しかし,2022年8月からは従来と同様の在外研究をすることができていて,2023年5月海外渡航が本格的に自由になったことで,このマイナスの要素もなくなる見込みである。また,上述のとおり,オンライン交流が相当に有用であることを実感していて,今後ともこれを大いに活用して行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
当初の狭い研究対象の「代償請求権」から,「代償財産」,相続財産,遺産分割,さらには相続法全般と研究対象を拡大することに成功しているので,その集大成として,本研究最終年度(2023年度)には,ドイツ相続法の体系書の翻訳を刊行する計画である。 他方,代償請求権論を支える履行不能論について,その判断基準に関する論文を準備していて,これを今秋(2023年秋)を目処に完成させる予定である。 また,2023年8月にも,2022年8月に引き続き,ドイツ・フライブルク大学での在外研究を予定している。とりわけ,ドイツ相続法の理論と実務の双方において,研究を深化させるべく,ドイツ人研究者(大学教授)とドイツ人実務家(裁判官)との対面・オンラインによる交流を計画している。また,もちろん,従来どおり文献による調査とインターネットを用いた研究も継続する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による研究計画の変更
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