【概要】本研究は,未開拓の研究領域であった,代償請求権と他の諸制度との関連を発展的に検討することを目的とした。具体的には,基礎研究として既に平成30年度に科研費補助金(研究成果公開費(学術図書))を受けて刊行していた拙著『代償請求権と履行不能』において将来の課題として指摘しておいた,他の諸制度との関連と展開を5年間掛けて検討するものであった。 【最終年度】令和5年度においては,次の2点において研究実績を上げることができた。第1に,2023年8月にドイツに研究滞在し,共同研究者のディーター・ライポルト教授とともにドイツ相続法体系書の翻訳作業を進め,『ドイツ相続法』を脱稿した。もっとも,目標としていた2023年度中の刊行は果たせず,2024年度の刊行予定である。第2に,相続法の行為論的分析として,「ドイツ倒産法における相続人のための免責許可」千葉大学法学論集38巻1・2号127頁~141頁を公表した。 【期間全体】5年間の全体として,「代償請求権と諸制度の関連と展開」というテーマに従って,「代償請求権」自体の研究よりも,「諸制度」,とりわけ売買や相続との関連に重点を置いた。具体的には,①まず,単行書および翻訳書を計2冊脱稿した。単行書は『ドイツ売買論集』(2021)であり,代償請求権論と関連させて日本法の解釈にまで立ち入って学説を公表した。また,翻訳書は前掲『ドイツ相続法』であり,「ドイツ相続法における代償財産」(2020)その他の諸論文で明らかにした相続法との関連を追求した。②また,2回の私法学会大会個別報告,すなわち,「代償請求権と履行不能」(2019)および「ドイツ売買論の現在」(2021)を実施した。 なお,新型コロナウイルス感染症に直撃された期間であったが,その副産物としてオンライン技術を活用した海外交流の手段を獲得し活用することができた。
|