研究課題/領域番号 |
19K01395
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村上 正子 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (10312787)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 養育費履行確保 / 養育計画 / 子の意見聴取 / 手続的公序 |
研究実績の概要 |
今年度はまず、2021年度に予定していたアメリカにおける養育費回収にかかる司法と行政の役割分担についての調査を行った。その際には、養育費回収だけでなく、広く父母の離婚に伴う子の養育(監護権や面会交流を含む)の履行確保について、カリフォルニア州とニューヨーク州における法制度及び実務の調査を行った。アメリカにおいては、ここ半世紀ほどで家事事件をめぐる裁判制度自体が大きく変わっており、離婚後の子の養育にかかる紛争解決における裁判所の手続的役割も見直されていることがわかった。共同親権の下で、離婚後の養育計画を中心とする子の養育に対する考え方(joint parenting)や、特にDV事案への対応について、家庭裁判所と外部機関との連携が必須とされている点、法曹以外の専門家が積極的に関わってくる点、養育費の履行確保について、民事執行法制度の枠を超えて行政機関と連携した事前の履行確保が重視されている点など、日本の制度改善にとって参考となる。なお、アメリカでは、行政機関による給与天引きを含めた強制措置がとられており、ある程度の履行確保に成功しているが、限界も感じているようで、議論の中心は制裁よりも任意の履行確保へと移っている点は興味深い。我が国において、不払いの類型ごとに、いずれの方法がより現実的かつ効果的なのか、民事執行制度の枠を超えて多方面から検討する必要性があることがわかった。 次に、昨年度に引き続き、EUの調査を行ったが、今年度は、子どもをめぐる家事紛争の解決の際に重要となる子の意見聴取の機会の保障について、EUにおける位置づけと裁判例を分析し、特に外国判決の承認・執行における手続的公序との関係での意義を検討した。 さらに、ベトナム最高人民裁判所主催の「国際離婚、子の引渡に関するセミナー」(2020年12月16日、オンライン)に参加・報告し、ベトナム実務に関する知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度に予定していたアメリカ法の調査を前倒しで行い、国内の現状と比較するために、地方自治体に聞き取り調査を実施することを予定していたが、昨年度に引き続きコロナ感染拡大が落ち着かないため、実施を見送った。また、アメリカ法の調査も現地で行うことができず、文献のみに依拠して行ったため、予想以上に時間を要したため、また、予定していなかったベトナムセミナーへの参加があったため、昨年度からの積み残しであるハーグ子奪取条約以外の国際条約における中央当局制度の分析ができなかった。 以上のことかた、本研究課題の進捗状況については、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、国際条約における中央当局制度の分析を行うとともに、国内の議論状況として、家族法制度に関する法制審議会の議論もフォローしつつ、わが国の制度のあり方を検討していく予定である。 また、しばらくは海外における調査の実施が困難なことが予想されるので、オンラインによる調査実施の可能性も検討していく。実現が難しい国やトピックについては、ハーグ国際私法会議のデータを最大限活用し、また書籍等の文献資料を入手することで、加盟国の現状を把握するように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大により、予定していた国内調査ができなかったため。 来年度以降、コロナ感染拡大による移動制限緩和状況を見ながら、適宜国内及び海外調査を再開する予定。
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